『ストロベリーナイト』とは
本書『ストロベリーナイト』は『姫川玲子シリーズ』の第一弾で、2006年2月に刊行されて2008年9月に435頁で文庫化された、長編の警察小説です。
シリーズ第一弾だけあって姫川玲子のキャラクターがはっきりと打ち出され、読みごたえのある作品となっています。
『ストロベリーナイト』の簡単なあらすじ
溜め池近くの植え込みから、ビニールシートに包まれた男の惨殺死体が発見された。警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子は、これが単独の殺人事件で終わらないことに気づく。捜査で浮上した謎の言葉「ストロベリーナイト」が意味するものは?クセ者揃いの刑事たちとともに悪戦苦闘の末、辿り着いたのは、あまりにも衝撃的な事実だった。人気シリーズ、待望の文庫化始動。(「BOOK」データベースより)
『ストロベリーナイト』の感想
『ジウサーガ』を全巻読み直し、更に『姫川玲子シリーズ』も再読しようと、ふたたび読み始めたところです。
本書『ストロベリーナイト』の面白さは『姫川玲子シリーズ』の項で書いたように、第一にキャラクターの造形にあると思います。
登場するキャラクターたちの軽妙な、それでいてポイントを押さえた会話があって、第二の面白さの理由である魅力的なストーリーが展開されるのです。
ただ、誉田哲也の作品ですからグロテスクな描写は避けては通れません。
本書も冒頭から糞尿絡みの殺人の場面が展開され、その後に姫川玲子が登場します。
監察医の國奥と死体を焼く話をしながら食事をしているところに今泉十係長警部から殺人事件の電話がかかります。
葛飾区はずれの水元公園近くの現場に行き、地取り捜査のための割り当てをすると何故かそこには会えば姫川玲子を口説きにかかる井岡巡査長刑事がいて、この男と組むことになるのでした。
捜査が続く中、再度殺人事件の現場へとやってきた玲子は、死体がこの場所に遺棄された理由や死体腹部の切創の理由が分かったと言い始め、事件は連続殺人へと移行します。
玲子は高校生の頃レイプにあった過去を持ち、そのトラウマに今でも苦しんでいます。その事件で立ち直るきっかけになったのが佐田という婦警さんの存在でした。
その婦警さんが殉職した際の殺害犯人の裁判で高校生の玲子が陳述する場面は本書での一つの山場でもあります。そして、玲子が警察官になったのもこの佐田婦警がいたからでした。
その後の玲子は若くして警部補試験に通り、今泉の引きもあって捜査一課十係の姫川班班長として四人の部下を持つまでになったのです。
姫川の暴走に近い捜査は華々しい結果をもたらしてくれますが、反面さまざまな軋轢も生みます。そうした手法を激しく非難するのがガンテツこと勝俣健作警部補でした。
「一課内公安」とも呼ばれるガンテツですが、ガンテツなりに玲子の手腕を認めてもいます。しかし、裏付けのない感覚に頼る捜査の危うさを気にかけていたのです。
そうした玲子の視点で描かれる捜査とは別に第三章までの冒頭に、後にエフと呼ばれることになる人物の視点での話が挿入されています。この人物が後に玲子の捜査と交錯してくるのです。
物語は浮かび上がってきた「ストロベリーナイト」という言葉を中心に、途中で大きな悲劇などを挟みながら進んでいきます。
物語は再びグロテスクな場面などが挟まれつつもエンディングへとなだれ込むのですが、まさにエンターテインメント小説としての面白さが詰め込まれた小説と言えます。
玲子の活躍とガンテツの策動などによって次第に明らかになる「ストロベリーナイト」という言葉の持つ意味、そのおぞましさなど、エンターテイメント小説としてのエッセンスが詰まった物語になっているのです。
特異な位置を占める警察小説としてこれからも続いていくことを願います。
ちなみに本シリーズは竹内結子を主演とし、菊田和男役西島秀俊、ガンテツ役として武田鉄矢などの豪華な配役でテレビドラマ化及び映画化もされており、共に好評を博しています。
本書『ストロベリーナイト』を原作としてのテレビドラマ化としては2010年11月13日に『土曜プレミアム』特別企画として放映された『ストロベリーナイト』があり、その後姫川玲子シリーズの他の作品を原作としてドラマ化されています。
その後に同じく竹内結子主演で『ストロベリーナイト』というタイトルでの映画化がされていますが、その内容は『インビジブルレイン』を原作として作成されている作品です。
その後、2019年4月から二階堂ふみと亀梨和也とのW主演で再び『ストロベリーナイト・サーガ』というタイトルでテレビドラマ化されましたが、以前の竹内結子、西島秀俊のイメージが強く、なかなか視聴率には結び付きにくかったという話を聞きました。