深町 秋生

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本書『煉獄の獅子たち』は、全編ヤクザの抗争に明け暮れる、新刊書で371頁の長編のエンターテイメント小説です。

本書中ごろまでは、ヤクザ同士、警察内部、それに警察対ヤクザの喧嘩ばかりで少々辟易したというところが正直な感想ですが、総じて面白い作品でした。

 

『煉獄の獅子たち』の簡単なあらすじ 

 

関東最大の暴力団・東鞘会で熾烈な跡目抗争が起きていた。死期の近い現会長・氏家必勝の実子・勝一と、台頭著しい会長代理の神津太一。勝一の子分である織内鉄は、神津の暗殺に動き出す。一方、ヤクザを心底憎む警視庁組対四課の我妻は、東鞘会を壊滅すべく非合法も厭わない捜査で東鞘会に迫るが…。地獄の犬たちに連なるクライム・サーガ第2幕。(「BOOK」データベースより)

 

今は死の瀬戸際にあった関東最大の暴力団である東鞘会の会長の氏家必勝は、跡目を会長代理の神津太一に譲ると言う。

そのため、必勝の実子で数寄屋橋一家の総長でもある氏家勝一は、東鞘会総本部長で勝一が最も信頼している喜納修三と謀り東鞘会を割る決心をする。

そして必勝の葬儀の日、火葬場からの帰りに勝一と織内らの乗った車にダンプカーが突っ込んできた。

辛くも生き延びた氏家勝一と織内鉄だったが、自分たちの甘さを知り、直接に神津太一の命を狙う決心をするのだった。

 

『煉獄の獅子たち』の感想

 

本書『煉獄の獅子たち』は登場人物が多く、筋が追いにくいため、登場人物を整理してみます。

まず本書の大きな流れとしては、関東最大の暴力団である東鞘会会長の死去に伴う跡目争いと、また東鞘会と東鞘会をコントロールしようとする警察との対立があります。

一方の軸としての暴力団の内部抗争では、まずは親分である氏家勝一の秘書兼護衛で影武者役も兼ねている織内鉄が中心となっています。

この氏家勝一の側としては、勝一が信頼する東鞘会総本部長の喜納修三や重光組の重光禎二などがいます。

そして東鞘会内部抗争の敵役として、東鞘会の跡目を継ぐ神津太一、その神津組若頭の十朱義孝が中心となります。

それに神津組若衆の三國俊也らがいて、神津組若頭の新開徹郎やその妻で織内の姉である新開眞理子が要の役割を担っているのです。

他方の軸である警察には、警視庁組対四課広域暴力団対策係の我妻邦彦が中心にいて、その女である八島玲於奈が重要な役目を果たしています。

さらに組織犯罪対策特別捜査隊、通称「組特隊」の阿内将副隊長と隊長の木羽保明とが意外な役割を担っているのです。

 

つまりは東鞘会では東鞘会を割って出ようとする氏家勝一と会長代理の神津太一との争いを中心に、身内を殺すことになった織内鉄個人の怒りや、神津組の若頭十朱義孝の台頭などがあります。

一方警察側では、暴力団を毛嫌いしている我妻刑事などの東鞘会をつぶそうとする捜査と、自分の息子の不始末を隠そうとする政治家による捜査の隠ぺい工作があります。

そこに東鞘会をコントロールしようとする組特隊のヤクザと見紛う不可思議な動きが加わり、組織や個人の思惑が複雑に絡み合って、本書は筋を見失いそうになるのです。

しかし、東鞘会の神津太一と十朱義孝がいて、それに東鞘会を割って出た氏家勝一とその子分織内鉄とが対立するというヤクザ内部の構図、それに警察内部での我妻刑事個人と組特会という組織の存在を覚えておけば見失うことはありません。

 

本書『煉獄の獅子たち』は、以上からも分かるように、全編ヤクザの抗争と警察内部での部署や個人の争いであふれています。

その個別の争いが暴力に満ちていて、バイオレンス小説が嫌いではない私でも若干引くところがありました。

というのも、本書の場合は物語の世界感がリアリティーに富む一方、暴力団の親分が子分を顔が変形するほどに殴ったり、警察官が暴力団を相手に骨が折れるほどに蹴りつけたりする非現実性に満ちているのです。

それは、本書も 平山夢明の『ダイナー』や 東山彰良の『逃亡作法』などと同様のフィクションであることは認識していても、それだけこの物語がリアリティに富んでいるということでしょうか。

 

 

だからなのか、例えば 大沢在昌の『黒の狩人』のように、ヤクザと警察官との男の感情の交流などが描かれている作品を好む私にとっては微妙なところで差異を感じるのです。

 

 

しかし、本書『煉獄の獅子たち』での濃密な書き込みは、それはそれで面白く読んだのは否定しません。

矛盾しているようですが、本書『煉獄の獅子たち』は本書としての面白さを持っていることは認めるのですが、私個人としてはより情緒的なものの方が好ましいというだけです。

 

さらに言えば、本書『煉獄の獅子たち』を全体としてみると単なるヤクザの跡目争いを超えた大きな枠組みでの、単なるバイオレンスを超えたところで展開される組織の思惑が面白く描かれています。

現実的にはあり得ないところであり、その点だけを捉えると荒唐無稽に過ぎて拒否感を覚える人も当然のことながらいると思われます。

私自身も呼んでいる途中ではそうした感覚でいました。あまりにも設定が無理筋だろうと思ったのです。

しかしながら、エンタテイメント小説として改めて本書を見るときに、本書の結末も含め、先に述べた個人的な好みを別とすればかなり考えられた筋立てだと思うのです。

暴力を暴力として描いていく中で、そうした世界でしか生きられない男たちを肯定的に描いていく本書のような作品もありだと思います。

 

本書を否定しながらも肯定するような矛盾に満ちた書き方になりましたが、これが正直なところです。

ちなみに、本書は『ヘルドッグス 地獄の犬たち』の前日譚だそうです。

出版年度の新しい本書を先に読んだことになります。早速そちらを読みたいと思います。

 

[投稿日]2021年01月06日  [最終更新日]2021年1月6日
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出たのは知っていたが、前作の内容をかなり忘れていて、なんとなく読むのを躊躇っていた。レビューを見て、前日譚だとわかり、それならとさっそく購入。

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