深町 秋生

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卑怯者の流儀』とは

 

本書『卑怯者の流儀』は、文庫本で324頁の中年刑事を主人公とする全六編のハードボイルドミステリー作品で、第19回大藪春彦賞候補となった短編集です。

 

卑怯者の流儀』の簡単なあらすじ

 

警視庁組対四課の米沢英利に「女を捜して欲しい」とヤクザが頼み込んできた。米沢は受け取った札束をポケットに入れ、夜の街へと足を運ぶ。“悪い”捜査官のもとに飛び込んでくる数々の“黒い”依頼。解決のためには、組長を脅し、ソープ・キャバクラに足繁く通い、チンピラを失神させ、時に仲間である警察官への暴力も厭わない。悪と正義の狭間でたったひとりの捜査がはじまる!(「BOOK」データベースより)

 

卑怯者の流儀』の感想

 

本書『卑怯者の流儀』の警視庁組対四課の米沢英利というベテラン刑事は風貌は冴えない中年ですが、裏社会に顔が利き、関東の広域暴力団である印旛会の大物組長濱田年次などの裏の世界の大物とつながっている悪徳刑事です。

第一話の「野良犬たちの嗜み」では、仁盛会若頭補佐の浦部恭一からの依頼で、行方不明になった浦部の経営する韓国人クラブのホステスを探して欲しいと頼まれ、第二話の「悪党の段取り」では、女とベッドにいるところを写真に撮られたので何とかして欲しいという、組織犯罪対策課第五課の出渕正義警部からの頼みをも引き受けています。

このように、米沢はその裏社会へのコネなどを利用して様々なトラブルの解決を金で引き受けているのですが、米沢の上司である組織犯罪対策課第四課女性管理官の大関芳子警視には頭が上がりません。

ところが、この大関というキャラクターが実に面白いのです。米沢との二人の掛け合いはちょっとした漫才のようでもあり、飽きさせません。

 

大関のような強烈な女キャラクターと言えば、同じく悪徳警官ものの逢坂剛の禿鷹シリーズの第四弾『禿鷹狩り』に出てくる岩動寿満子警部が思い出されますが、本書の大関はこの岩動寿満子警部とはかなり異なるようです。

本書『卑怯者の流儀』は人情劇の要素をも抱えている物語であるという作品の内容の違いということも勿論ありますが、大関の場合には根っこのところでのユーモア、人情味があるようです。

もともとは米沢がいろいろと世話をし、仕事を教え込んだ部下であったのですが、今ではその地位が逆転し、大関が女子プロレスラーも顔負けの体格を有していることもあって、頭が上がらないのです。

 

 

もう一人、人事一課の奈良本京香監察官と言う人物もいて、いつかは米沢を挙げようとするキャラクターもいるのですが、この人物は大関ほどのそない感はありません。しかし、本書では重要な役割を担っています。

人のトラブルを金に換えて生きている典型的な悪徳警官である主人公ですが、最初からそうであったわけではなく、情熱に満ちた警官であった時期もあったようで、そうした点を垣間見せつつ物語が進んでいく点も本書が面白いと感じる理由になっているようです。

そして、彼が現在のようになった理由も本書の終わりころで明らかにされていくのですが、読み手の心をつかむ上手い描き方だと思いました。

深町秋生の近年の作品で『探偵は女手ひとつ』という作品があります。

この作品は、椎名留美という女性を主人公とする、六編からなるハードボイルドタッチの連作短編小説集です。

山形を舞台とし全編を山形弁で通す主人公はシングルマザーであり、元刑事という過去を持ち、今は探偵業を開業しているもののその実態は便利屋と化しているのです。

 

 

本作『卑怯者の流儀』とこの『探偵は女手ひとつ』という作品は物語の持つ雰囲気が良く似ています。

作者が同じだから当然と言えばそうなのですが、共に裏社会に通じる闇に捉われた人間を描いていて、コミカルで、キャラクターが立っています。

そして、脇を固める登場人物がユニークでよく書きこまれているのです。読みやすく、適度に毒があり、エンターテインメントとして独自の世界を構築されているようです。

 

探偵は女手ひとつ』もそうですが、本書も続編が期待されるのですが、なかなかシリーズ化はされないようです。

いちファンとしては、本書『卑怯者の流儀』もシリーズ化されるのを待ちたいと思っている作品の一つです。

[投稿日]2017年12月09日  [最終更新日]2023年5月6日
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「卑怯者の流儀」深町秋生著|BOOKS|BOOKS|日刊ゲンダイDIGITAL
「女を捜して欲しいんです」と、警視庁組対四課の刑事、米沢英利はヤクザの若頭補佐の浦辺に頼まれ、文庫本1冊分の厚さの封筒を受け取った。

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