深町 秋生

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組織犯罪対策課 八神瑛子シリーズ(2019年05月26日現在)

  1. アウトバーン
  2. アウトクラッシュ
  3. アウトサイダー
  1. インジョーカー

 

誰もが認める美貌の持ち主でありながら、剣道三段という腕前で、汚れ仕事に手を染めることを厭わず、それどころか警察官を相手に金貸しをしており、その引き換えにその警察官の弱点を抑え、いざという時は自分の言うことを聞かせる、そんな女刑事八神瑛子を主人公とする警察小説です。

 

そんな彼女ですが、出版社の雑誌記者だった瑛子の夫の八神雅也は、瑛子と結婚してからたった一年でこの世を去っています。三年前、奥多摩の鉄橋から身を投げて遺体は数十メートル下の谷底で発見され、捜査一課は彼の死因を自殺と断定したのです。

橋のうえには彼の革靴がきちんと揃えてあり、下戸だったはずの彼の血液からは高濃度のアルコールが検出されていました。その一か月後、瑛子は流産しています。

 

こうした過去を持つ正義感の強い女性が一転、悪徳刑事として金貸しを通じて警察官の弱みを握り、裏社会にもコネを構築し、夫の死の謎に迫ります。

 

「悪徳刑事」とうキャラクターといえば、まずは 逢坂剛の『禿鷹シリーズ』が思い起こされます。

「悪徳刑事」といえばまずは「ハゲタカ」と言われるほどの強烈な存在感を持つキャラクターですが、本書の八神瑛子の悪徳ぶりもなかなかに負けてはいません。

 

 

さらに、個性豊かな女性刑事といえば 誉田哲也の『姫川玲子シリーズ』でしょう。女性であることを当たり前のこととして男社会の警察でその存在感を主張しているさまは本書の八神瑛子とよく似ています。

ただ、八神瑛子の行っている他の警察官の弱点を握り言うことを聞かせるという手法は、『姫川玲子シリーズ』に登場するガンテツこと勝俣健作警部補のほうによく似ています。

八神瑛子は自分の目的を果たすための手段としての他者の操作ですが、ガンテツの場合は公安出身という来歴、それに個人的な素質もあっての他人の支配という両者の違いはありますが。

 

 

また、本シリーズの脇を固める役者たちも個性的です。

まずは八神瑛子が勤務する上野署の署長であり、瑛子を目の敵にしている富永昌弘というキャリアが存在感があります。瑛子が出す結果は申し分ないものの、そこに至るプロセスに腐敗と不正の臭いを感じ取っていて、瑛子に対する監視の手をゆるめません。

そして、女子プロレスの団体を首になり、酔って大学生の応援団を相手に大立ち回りを演じたところを拾った落合里美という女は瑛子の暴力面での助っ人として力を発揮しています。

さらに、殺された蛇頭のボスの地位を引き継いだ劉英麗という女性がいます。裏社会での瑛子の後ろ盾として、瑛子を使うと同時に貴重な情報をもたらしてもくれます。

また、千波組若手幹部の甲斐道明という男も瑛子とは持ちつ持たれつの関係で、互いに情報を交換している、なかなかに切れ者の極道です。

 

ただ、本シリーズの脇役たちは今一つ人物像が薄いのですが、ただ、よく動く印象はあります。富永は警察署長でありながら自ら事件現場に顔を出しますし、プロレスラー上がりの里美に至っては男勝りの腕力で八神瑛子を助けるのです。

とはいえ、本シリーズの八神瑛子は基本的には一匹狼であり、目的達成のためには手段を択ばない存在です。その点では『禿鷹シリーズ』に近いと言えそうです。

ただ、物語としてみた場合、本シリーズは警察小説というには若干ためらいがあり、アクション小説と呼ぶほうが適切と感じるような話です。

そして、巻を重ねるごとにバイオレンス小説と言ってもいいほどの暴れっぷりを見せることになります。

 

そういう意味では、 大沢在昌の『魔女シリーズ』の主人公である裏社会でのコンサルタントをしている水原により似ているというべきでしょうか。

ただ、『魔女シリーズ』はハードボイルドであり、水原の生きざまそのものが描かれているともいえる物語です。

それに対し、本『八神瑛子シリーズ』はアクション性が前面に出ていて、刑事としての行動ではなく、情報を得るためには裏金も遣い、加えて暴力も辞さないタフな女刑事として、よりストーリー性が強調されています。

さきに本シリーズに登場する「人物像が薄い」と書いたのも、このストーリー重視のためにそう感じたのではないでしょうか。

 

 

本シリーズの根底には事故死として処理された夫の死の真相を暴く、というサブストリーがあります。しかし、それも第三巻で一応の方が付いているはずですが、この度第四巻の『インジョーカー』が出版されました。

この第四巻では、これまでよりもさらにアクション性が強くなっていて、八神瑛子が追う事件は警察の仕事というよりは直接に裏社会のための情報収集作業が描かれていると言ってもいいほどになっています。

また、目的を失った八神瑛子の人生も不安定であり、加えて思いもかけない人物の最後が描かれていたりと、今後のこのシリーズの行く末が気になる書き方をしてあり、興味は尽きません。

次巻を待ちたいと思います。

 

なお、本シリーズのタイトルには『組織犯罪対策課 八神瑛子』というシリーズ名が付加されていましたが、第四巻目からはそれも無くなり、単に作品タオ採るだけになっています。

[投稿日]2019年05月26日  [最終更新日]2019年6月5日
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おすすめの警察小説作家

佐々木 譲
作品のジャンルは多岐にわたるようですが、とくに警察ものが人気が高い作家さんのようです。『警官の血』などは、親子三代にわたり警察官となった男達の人生を描く大河小説で、2007年の日本冒険小説協会大賞を受賞しており、直木賞のノミネート作でもあります。他に『笑う警官』を始めとする『道警シリーズ』も人気があります。
今野 敏
この人も種々のジャンルの作品を出されています。でも、さすがに自ら空手塾を主宰されている程のことはあり、『孤拳伝』などの格闘小説には定評があります。他に『隠蔽捜査』などの警察ものは、独特の雰囲気を持っていて、実に面白いシリーズを多数書かれています。
大沢 在昌
多彩な作家で、冒険小説をメインに書かれていますが、『新宿鮫』を最初とする新宿署の鮫島警部の活躍を描く『新宿鮫シリーズ』は面白い。シリーズ三作目の『無間人形』で直木賞を受賞しているほどです。
横山 秀夫
どの作品も、従来の警察小説とは視点を異にしています。NHKでドラマ化もされた『64(ロクヨン)』にしても主人公は広報官です。また検視官や新聞記者など多彩です。勿論普通に捜査官が主人公になっている作品もあります。どの作品もよく練り上げられている感じが、読んでいて物語の厚みとなって感じられます。
笹本 稜平
山岳小説の笹本稜平とはまた別の顔があります。どちらかというと、正統派というよりも個人がメインの冒険小説的な物語が多いようです。とはいえ、『越境捜査』では仲間と組んで動いたりもします。

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