深町 秋生

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本書『ヘルドッグス 地獄の犬たち』は『煉獄の獅子たち』の後日譚であり、文庫本で560頁の長編のエンターテイメント小説です。

『煉獄の獅子たち』と同様に辟易とするほどにに満ちた物語ですが、かなり面白く読んだ作品でした。

 

『ヘルドッグス 地獄の犬たち』の簡単なあらすじ 

 

「警察官の俺に、人が殺せるのか?」関東最大の暴力団・東鞘会の若頭補佐・兼高昭吾は、抗争相手を潜伏先の沖縄で殺害した。だが兼高はその夜、ホテルで懊悩する。彼は密命を帯びた警視庁組対部の潜入捜査官だったのだ。折しも東鞘会では後継をめぐる抗争の末、七代目会長に就任した十朱が台頭していた。警視庁を揺るがす“秘密”を握る十朱に、兼高は死と隣り合わせの接近を図るが…。規格外の警察小説にして注目の代表作。(「BOOK」データベースより)

 

東鞘会系神津組若頭補佐の兼高昭吾は、本名を出月梧郎という潜入捜査員だった。

この兼高が室岡秀喜と共に沖縄に隠れていた喜納修三を抹殺する場面から始まる。

東京に帰った二人は組事務所にいた神津組若頭の三國と一色触発の雰囲気になるものの、神津組三代目組長の土岐勉の一撃で収まってしまう。

人殺しに苦悩する兼高が唯一仮面を外せる場所が「池之端リラクゼーションサロン」のセラピスト衣笠典子の部屋であり、上司の阿内将との連絡用のパスワードをもらえる場所だった。

そんな兼高が、東鞘会先々代会長氏家正勝の息子である氏家勝一が動きがあやしいため、現東鞘会会長の十朱義孝のボディーガードを務めるようにと命じられる。

兼高の本来の目的である十朱の秘密を探り出す機会がやってきたのだった。

 

『ヘルドッグス 地獄の犬たち』について

 

本書『ヘルドッグス 地獄の犬たち』は、出版年月とは逆に、時系列上では『煉獄の獅子たち』の後日譚になっています。

私は、その『煉獄の獅子たち』を先に読んでいたので、つまりは時系列のとおりに読んだことになりますが、読む順番は別にどちらでもよさそうです。

また、本書『ヘルドッグス 地獄の犬たち』は文庫本化されるときに改題されたものらしく、私が読んだ新刊書では単に『地獄の犬たち』となっていました。

ですから、文庫本であれば読めるはずの「解説」は読めなかったのですが、嬉しいことにカドブンで北上次郎氏の解説を公開してありました。未読の方はそちらを参照してください。

 

『ヘルドッグス 地獄の犬たち』の感想

 

本書『ヘルドッグス 地獄の犬たち』の主人公は兼高昭吾といい、組織犯罪対策特別捜査隊副隊長の阿内将から命じられて東鞘会神津組へと潜入した本名を出月梧郎というという捜査官です。

東鞘会七代目会長が抱えている、警察を揺るがす程の秘密を見つけ、始末してしまうことを任務としていました。

その兼高が潜り込んだ武闘派の神津組の組長が土岐勉であり、若頭が三國俊也という経済ヤクザです。

兼高が最終目標とする人物が東鞘会会長の十朱義孝で、その会長秘書が熊沢伸雄といい直系の組長でもあります。東鞘会の三羽烏と呼ばれるのがこの熊沢と前出の土岐、そして東鞘会理事長の大前田忠治です。

 

本書『ヘルドッグス 地獄の犬たち』は兼高が室岡と共に沖縄に隠れていた喜納修三を抹殺する場面から始まりますが、この喜納殺害の場面が派手という言葉では賄いきれないほどのグロテスクというしかない場面です。

この沖縄の場面だけで主人公の兼高昭吾と室岡秀喜との人となり、それに本書の性格が分かります。

 

兼高自身は一人になって嘔吐を繰り返すほどの罪悪感を持ちつつの行為ではあるのですが、室岡に至っては歌舞伎町あたりにいるホストのような容姿をしていながら東鞘会神津組きってのキラーです。

物語は主人公である兼高を中心にして進むのは勿論ですが、その傍にはほとんどの場合室岡もともにいます。二人の役目がボディーガードであり、かつ殺し屋としての役割も担っている以上はいつもそばにいるのですから当たり前でもあるのですが。

 

とにかく、暴力の場面は悲惨を通り過ぎて凄惨としか言いようがなく、そうした暴力シーンが繰り返し登場します。

それは親分の子分に対する単純な日常的な暴力ですらそうであり、それ以上に戦闘という他ない場面ではそのアクションの描写はすさまじいものがあります。

 

そうした凄惨な暴力場面の一方で、主人公は自分の行為に対し罪の意識に押しつぶされそうになっていて、一人になってからは嘔吐を繰り返してもいます。

いつまでたっても暴力の場面に慣れることができず、嘔吐と胃薬、そして精神安定剤の世話になっているのです。

こうした主人公の懊悩は、物語の展開が、単なるバイオレンスものではない厚みをもたらしていそうです。

とはいえ、兼高の本当の上司である組織犯罪対策特別捜査隊(組特隊)副隊長の阿内将もまた当然のことながら普通人ではなく、暴力の世界を嬉々として生きているような男です。

そんな男に見込まれた兼高が暴力世界で数年でのし上がっていくには暴力しかないとはいえ、残忍な人殺しをも少なくとも表面上は平気で実行していくのですから主人公も普通ではないのでしょう。

だからこそ潜入捜査にも耐えうるのだと言えるのでしょうが、いくらフィクションだからといって少々やりすぎではないかとも思うこともありました。

しかし、ここまで振り切った物語だからこそ、この物語世界としてのリアリティを得ることができ、話しに厚みがあると言えるのでしょう。

 

現実の潜入捜査官の話を聞いたという人の文章を読んだことがあります。

普通警察官の話ではなく、麻薬取締官の話だったと思うのですが、文字通り命を懸けた潜入操作は、本書のような暴力など何もなくてもその緊張感は尋常なものではなく、一度潜入するともう二度と同じ仕事はできないとありました。

普通の人以上に胆力があり、訓練を受けた人でさえそうなのです。それが普通であり、一般人の神経では一度の潜入すらできないでしょう。

 

そうした潜入捜査官を主人公とし、それもヤクザの世界で生きのし上がらせるなどという話が現実にあるわけはありません。

ですが、そうした現実にはあり得ない世界だからこそ、暴力に満ちた虚構の世界で潜入捜査官がのし上がっていく物語を面白く感じるのでしょう。

かつて、東映映画での高倉健や菅原文太といったヤクザの主人公に拍手を送ったのとは異なります。

どちらかといえば現実にはあり得ないスーパーマンやバットマンなどのコミックの世界のヒーローへの喝采に近い感覚ではないでしょうか。

どちらにしても、虚構だからこそ楽しめる物語だと言えます。

[投稿日]2021年01月30日  [最終更新日]2021年8月19日
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