本書『破門』は『疫病神シリーズ』の五作目の作品で、文庫本で480頁近くにもなる長さの長編小説です。
『疫病神シリーズ』で三回目の候補となった本作で第151回直木賞を受賞されました。
「わしのケジメは金や。あの爺には金で始末をつけさせる」映画製作への出資金を持ち逃げされた、ヤクザの桑原と建設コンサルタントの二宮。失踪したプロデューサーを追い、桑原は邪魔なゴロツキを病院送りにするが、なんと相手は本家筋の構成員だった。禁忌を犯した桑原は、組同士の込みあいとなった修羅場で、生き残りを賭けた大勝負に出るが―。直木賞受賞作にして、エンターテインメント小説の最高峰「疫病神」シリーズ!(「BOOK」データベースより)
疫病神コンビのひとり桑原や、桑原の兄貴分である二代目二蝶会若頭の嶋田は、映画プロデューサーの小清水の話に乗り映画制作のために出資をした。
しかし、小清水は金を握ったまま行方をくらませてしまい、桑原と二宮は小清水を追って飛び回ることになる。
だが、桑原は小清水の探索の途中、二蝶会と同じ神戸川坂会系列ではあるものの二蝶会よりも格上の亥誠組系列滝沢組の連中と衝突してしまうのだった。
本書『破門』では金回りがよくないヤクザの世界や疫病神コンビが前提となっています。
それは暴力団関係者が、平成23年春から施行された大阪府の暴力団排除条例によって収入手段の確保が厳しくなったという現実があります。
そしてそのことは建築現場でのヤクザ対策としての「サバキ」を業務とする「暴力団密接関係者」である二宮らの現実でもあったのです。
とはいえ、桑原は金の臭いさえすれば飛びつくのはいつものことですし、二宮もまたいつも金はなく、そのために厄介ごとに巻き込まれるのですが・・・。
本『疫病神シリーズ』では、「疫病神コンビ」である桑原と二宮の二人の掛け合いが大きな魅力となっていることは異論のないところです。
その二人が、互いにけなし合いながら、いざ相手の本格的な生命の危機の場面では、自分の身を賭して助けに駆けつけるのですから、読者もつい感情移入してしまいす。
著者の黒川博行氏は、本書『破門』での芥川賞受賞に際してのインタビューの中で、「スーパーヒーローではない、地に足のついた二人が主人公」だという意味のことを語っておられます。
確かに、この二人は特別な能力も何も持たないという意味では普通人です。
しかし、喧嘩も弱い二宮は別としても、武闘派のヤクザである桑原が「地に足のついた」普通人であるかは疑問のあるところです。
しかし、著者の言いたいことはそういうことではなく、身近に存在してもおかしくない人ということでしょう。そういう意味ではまさに普通人と言えそうです。
黒川博行という作家のもう一つの魅力は、綿密な取材をもとにして丁寧に書きこまれたその文章ゆえのリアリティでしょう。
加えて、綿密に組み立てられた物語が一段とその魅力を増しています。
更には、ヤクザものの物語としての魅力も兼ねそなえています。
特に本書『破門』においては、若頭の嶋田が掛け合いの前面に出る場面がありますが、腹芸で相手の幹部クラスと渡り合う場面は読み応えがあります。
ここらは、昔読んだ『人生劇場 残侠篇(上・下)』などのような作品とはまた異なる面白さがあります。
なお、『疫病神シリーズ』は、「BSスカパー!」で桑原を北村一輝、二宮を濱田岳が演じてテレビドラマ化されていて、本書『破門』が第六話から第八話の原作とされています。
また、本書『破門』を原作として『破門 ふたりのヤクビョーガミ』というタイトルで映画化もされています。
こちらは佐々木蔵之介と横山裕とが疫病神コンビを演じているそうです。
リアリティ豊かなこのシリーズは、エンターテインメントとして一級の面白さを持ったシリーズです。
ただ、さすがの桑原も騙され続ける本書は、意外な結末を迎えます。続編で早くその後の桑原の消息を知りたいところです。