『鬼哭の銃弾』とは
本書『鬼哭の銃弾』は2021年1月に刊行された328頁の長編の警察小説です。
刑事だった父親と現役の刑事である息子との確執を通して、ある事件の解決を目指す二人の行動を描くどこか中途な印象も抱いた、しかしそれなりに面白い作品でした。
『鬼哭の銃弾』の簡単なあらすじ
警視庁捜査一課の刑事・日向直幸は多摩川河川敷発砲事件の捜査を命じられる。使用された拳銃の線条痕が、22年前の「スーパーいちまつ強盗殺人事件」で使用された拳銃と一致。迷宮入り事件の捜査が一気に動き出す。その事件は鬼刑事の父・繁が担当した事件だった。繁は捜査にのめり込むあまり、妻子にDVを働き家庭を崩壊させた。警官親子が骨肉の争いの果てに辿り着いた凶悪事件の真実とはー。(「BOOK」データベースより)
22年前、府中市のスーパー「いちまつ」で店長、パート、バイトの三人が射殺され金が奪われるという事件が起きた。
そのとき使用された銃だと思われる発砲事件が起き、警視庁捜査一課殺人犯捜査三課の日向直幸が担当することになった。
早速府中署の特別捜査本部への乗り込むが、警察はこの「いちまつ」事件には何度も振り回された経緯もあり、さらには事件についての内部情報が漏れたこともあって、所轄の捜査員との温度差が目立っていた。
捜査が進むなか、重要な容疑者として浮かんできたのは直幸の父である日向繁だった。
繁はかつて「いちまつ」事件の担当でもあった元鬼刑事であり、直幸や直幸の母親は茂に暴力を振るわれる毎日だったのだ。
その繁が未だ「いちまつ」事件を追っているというのだった。
『鬼哭の銃弾』の感想
本書『鬼哭の銃弾』は、二十二年前の強盗殺人事件に振り回される警察の姿を描く警察小説であると同時に、刑事だった暴力的な父親と、その父親を嫌っていたにもかかわらず刑事となった息子の父子の物語でもあります。
もしかしたら、警察小説というよりはミステリータッチの冒険アクション小説と言うべきかもしれません。
主人公は警視庁捜査一課殺人犯捜査三課の班長でもある日向直幸であり、その父親は現在は退職しているものの、二十二年前は「いちまつ」事件担当の刑事だった日向繁という男です。
物語はほとんどこの二人を中心に動きます。勿論、例えば直幸の妻であったり、上司であったりと脇を固める人たちも個性的な人物は配してありますが、物語としてはこの二人を軸に動き、それなりの面白さ持った作品です。
深町秋生の作品というと、バイオレンス感満載の物語という印象が強いのですが、それは本書においても例外ではありません。
特に父親の日向繁は暴力の塊であり、特に、家庭内のDVのために母親は命を縮めたというのですから、よく刑事を続けることができたものです。
直幸の父親への反発は当然であり、過去には父親の膝を空手の蹴りで壊したこともあったと言います。今でも父親を許してはいないのです。
こういうキャラクターの父親を設定している理由は、私にはよく分かりません。母親の命を縮めるほどのDVを繰り返す刑事、という存在があまり理解できないのです。
親子の感情的な対立を描きたいというのであれば分からないではありませんが、本書の設定は若干違和感を感じます。
また、本書『鬼哭の銃弾』は古くはないどころか新しいと言える作品であるのに、何故か型にはまった印象を抱きました。
例えば、本書の冒頭で主人公とその妻との会話の場面がありますが、そこでの印象も定型的な印象を覚えてしまうのです。
虐待の末に子供を殺した親がおり、その事件の捜査をする刑事自身も幼い頃に父親から虐待を受けていたという設定のもと、そうした夫のすべてを知り許容している妻がいます。
実際はそんなに読んでない筈なのに、何故かどこかで読んだような、それも何度も読んだことがあるような類型的な印象であり、それ以上のものを感じないのです。
どうしてこのような印象を抱いたのか、理由はよく分かりません。
その暴力的な父親が、過去の「いちまつ」事件の掘り起こしを担当している直幸の前に登場するどころか、「いちまつ」事件を今でも追いかけているというのです。
次第に明らかになっていく「いちまつ」事件の真相、そして、そこに絡んでくる父繁の存在というその設定自体はやはり深町作品であり、バイオレンス満載でもあってエンターテインメント作品として面白く読みました。
こうして書いてくると、家族への暴力を繰り返していた刑事とその息子の刑事という設定を、個人的に受け入れることができていないのではないかと思えてきました。
物語としては面白く感じたのですから。矛盾といえば矛盾ですが、素直な気持ちです。
そうした個人的な印象はありながらも、つまりは本書『鬼哭の銃弾』は、深町エンターテインメント作品として面白く読んだ作品だと言えます。