藤沢 周平

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主人公は青江又八郎という浪人者であり、表題のとおり、又八郎の用心棒稼業の中で繰り広げられる日常を描いてある時代小説です。殆どは連作短編の形式をとっていますが、第三巻から十数年が経ったという設定の第四巻の「凶刃」だけは長編となっています。

藤沢周平が第69回直木賞を受賞した『暗殺の年輪』が発表されたのが1973年で、本シリーズの第一弾『用心棒日月抄』が「小説新潮」に連載されたのが1976年から1978年です。ということは、藤沢周平の初期の作品と位置付けられるのでしょう。

私が読んだ本シリーズの新潮文庫本版のあとがきや他の記述を読んでみると、藤沢周平の作品はどことなく暗い作風であったものが、本シリーズあたりから藤沢周平の特徴である豊かな抒情性とユーモアすらも漂わせる作風へと変化してきた、と書かれていました。

登場人物を見ると、主人公は、青江又八郎という浪人です。「月代がのび、衣服また少々垢じみて、浪人暮らしに幾分人体が悴れてきた感じだが、そういう又八郎を擦れ違う女が時どき振りかえる。」ような人物です。

 

又八郎は、家老の大富丹後の藩主壱岐守毒殺の話を聞き、許婚の父親の平沼喜左衛門に知らせます。しかし、逆に切りつけられ、これを返り討ちにしてしまい、脱藩する羽目になってしまいます。

そこで、江戸に出て浪人暮らしをすることになり、口入屋の相模屋を通して用心棒の仕事を請ける生活に入るのです。

 

主な登場人物として、細谷源太夫という用心棒仲間がいます。子が六人もいて、嫁そして自分と八人の食いぶちを稼がなければなりません。腕はたちますが酒と女にだらしのないところがあります。

そして、又八郎らに職を紹介する相模屋の主が吉蔵であり、こずるい一面も持ち合わせていますが、基本的に人情家です。

そして、二巻目以降の重要な登場人物として佐知という女性がいます。この女性は第一巻『用心棒日月抄』の終盤に又八郎の命を狙う女として登場するのですが、第二巻『孤剣 - 用心棒日月抄』からは逆に又八郎の重要な相方として活躍します。そして、又八郎の「江戸の妻に」と願うほどになるのです。

勿論、又八郎には苦労ばかりをかけている由亀という妻が故郷で又八郎の帰りを待っています。しかし、この物語は殆どの舞台が江戸であり、由亀が登場する場面はそれほどにはありません。それよりも江戸の又八郎であり、佐知なのです。

 

先に述べた本シリーズのユーモラスな側面は、相模屋の吉蔵と初めて出会う場面での「背が低く、狸に似た貌の男」という紹介の仕方からしてそうでしょうし、細谷源太夫というキャラクターの存在自体が滑稽味を前提としていると言えます。

 

物語の構成をみると、第一巻『用心棒日月抄』は、赤穂浪士の討ち入りを主軸に、その廻りを又八郎が走り廻っていると取れなくもありません。赤穂義士の物語を第三者として見た物語なのです。

しかし、第二巻『孤剣 - 用心棒日月抄』第三巻『刺客 - 用心棒日月抄』となると、又八郎が藩内の抗争に巻きこまれて再び江戸での浪人生活に戻るという体裁になっています。作者の単行本版「刺客」のあとがきにあるように、「第一巻だけで終わる予定だったもの」がシリーズ化されたものだからなのでしょう。

とはいえ、第一巻『用心棒日月抄』の終わりに、大富静馬という剣客や、佐知という女を登場させているところからして、続巻を前提としているとも読め、連載途中からは続編を構想されていたのではないでしょうか。

 

時代劇、それも用心棒ものといえば、 鈴木英治の『口入屋用心棒シリーズ』があります。当初は主人公の湯瀬直之進と倉田佐之助との闘いが主軸だったのですが、途中から物語の雰囲気が変わりました。
 

 
また 金子成人の『付添い屋・六平太シリーズ』もあります。付添屋とはいうものの実質は用心棒です。
 

 
他にも色々とありますが、やはり本『用心棒日月抄シリーズ』の面白さにはかなわないようです。作品の優劣ではなく個人の好みに帰着しますが、藤沢周平という作家のうまさ、面白さとどう違うのか、色々と考えましたが分かりませんでした。

[投稿日]2015年04月18日  [最終更新日]2018年9月11日
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藤沢周平 『用心棒日月抄』 | 新潮社
家の事情にわが身の事情、用心棒の赴くところ、ドラマがある。青江又八郎は二十六歳、故あって人を斬り脱藩、国許からの刺客に追われながらの用心棒稼業。

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