お家の大事と密命を帯び、再び藩を出奔――用心棒稼業で身を養い、江戸の町を駆ける青江又八郎を次々襲う怪事件。シリーズ第二作。( Amazon「内容紹介」より )
『用心棒日月抄シリーズ』の第二弾の連作短編時代小説集です。本書も前巻同様に用心棒としてのエピソードを繋いだ長編小説とも言えそうです。
前巻で赤穂浪士の物語に絡んだ又八郎の物語は終わりました。本来、このシリーズは「第一巻だけで終わる予定だった」筈ですが、「編集者のそそのかしによってシリーズ化された」そうで、この巻からは前巻での藩内の争いを軸に物語を再構成してあります。
つまり、前藩主壱岐守毒殺の首謀者の家老の大富丹後は間宮中老によりすでに処断されていたものの、大富一派の手紙類や日記、それに連判状などが剣客大富静馬に持ちだされたらしいのです。
ところが、そのことを公儀隠密が嗅ぎつけて静馬を追っているため、藩のために間宮中老は又八郎に再度脱藩の形式をとり、静馬から連判状他を取り戻すようにと命じるのです。
こうして又八郎は再度江戸へと出ることになります。間宮中老は家族の世話は見るし、路銀こそ少しは出してくれたものの、江戸での生活費は自分で調達するようにとのことであり、再び相模屋の吉蔵の世話になることになるのでした。
そこで、重要な登場人物として佐知という女性が重要な役目を持って登場します。前巻の終わりで又八郎を襲撃したものの、自ら太ももを傷つけ逆に又八郎に助けられた女です。
この佐知は江戸での忍びの組織である嗅足組の頭であり、又八郎の手足となり又八郎の任務の手助けをすることになるのでした。
勿論、細谷源太夫も用心棒の相棒として登場しますし、新たな用心棒仲間も加わり、又八郎の用心棒としての日々が描かれることになるのです。
以下、各話のあらすじです。
剣鬼
間宮中老の命により、大富静馬のもつ連判状などを取り戻すために再び江戸へと戻った又八郎でした。藩邸を見守るうち、佐知という女刺客を見つけ、静馬の情報を知らせてくれるようにと頼むのだった。一方、吉蔵の店へ行くと、細谷が付き添っていた子供が行方不明となり、怒った雇い主の旗本に捉われているという。又八郎は、すぐに細谷を救い出し子供の行方を探すのだった。
恫し文
近く強盗に入るという投げ文があり、呉服屋の越前屋の用心棒を米坂八内と共に請けた。そんな折、佐知からの知らせで静馬の現れる場所に行くと、静馬を狙う公儀隠密の一団と闘うことになってしまう。その後、越前屋では百両という金が消え、その数日後米坂といるときに七~八人の頬かむりの男たちが襲い来たのを迎え撃つのだった。
誘拐
ふた親を殺されたゆみという十三才の女子が雇い主の仕事を請けた。その泊まり込み先に佐知に使われているという女が佐知の危機を知らせてきた。大富静馬に捕らえられたらしい。すぐに佐知を助け出した又八郎だったが、帰るとゆみの姿が無くなっていた。
凶盗
評判の残虐な夜盗を恐れている箔屋町の油問屋安積屋で、細谷や米坂とともに用心棒につくことになった。ある日佐知に呼び出され、静馬の探索の報告を受けた帰り、安積屋を見張る男を見かける。十四~五人の夜盗が襲ってきたものの、なんとか三人で撃退することができた。後日、佐知と共に静馬の隠れ家へ行くと、静馬は大富の手紙と日記を残して逃げ去るのだった。
奇妙な罠
小牧屋という糸屋の隠居の別宅の番人の仕事を請けた又八郎だったが、これが罠だったらしく、公儀隠密の一団に捉われてしまう。又八郎を大富静馬の仲間と勘違いした隠密らは、又八郎を拷問にかけ静馬の行方を白状させようとするのだった。
凩の用心棒
ある日米坂が帰ってこないという知らせを受けた。吉蔵から話を聞くと、若狭屋の別宅に隠したおけいという十七歳の娘の警護だったらしい。用心棒として自分でおけいを助け出そうとしている筈と考えた又八郎は、新たな変死体が出たとの知らせに駆けつけ、その近くに米坂がいるとの見当で探すと案の定米坂がいた。
債鬼
風邪を貰った又八郎はしばらく寝込んでしまう。何とか熱も下がった頃、佐知が静馬がさる老中に近づいていると知らせてきた。一方、米もなくなった又八郎は、ある因業な金貸しの用心棒をすることになったが、これほどいやな仕事もないほどだった。また、細谷と米坂に会った又八郎は、米坂の帰参が叶うかもしれない事情を知る米坂の元同僚を捕まえるのだった。
春のわかれ
佐知が静馬の隠れ家を見つけたと言ってきた。その屋敷では十人近くの公儀隠密が見張っていて、又八郎は大富派の瀬尾弥次兵衛に会い、公儀隠密に対し手を組むことを持ちかける。また細谷に助っ人を頼み、佐知や瀬尾と共に静馬の隠れ家を見張るの公儀隠密を倒しに向かうのだった。