藤沢 周平

用心棒日月抄シリーズ

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用心棒日月抄』とは

 

本書『用心棒日月抄』は『用心棒日月抄シリーズ』の第一弾で、1978年年に新潮社から刊行され、1981年3月に新潮文庫から519頁の文庫として出版された連作の痛快時代小説です。

活劇の要素が強い作品ではありながらも情感豊かな描写は変わらず、やはり面白く惹きこまれる作品です。

 

用心棒日月抄』の作品

 

家の事情にわが身の事情、用心棒の赴くところ、ドラマがある。青江又八郎は二十六歳、故あって人を斬り脱藩、国許からの刺客に追われながらの用心棒稼業。だが、巷間を騒がす赤穂浪人の隠れた動きが活発になるにつれて、請負う仕事はなぜか、浅野・吉良両家の争いの周辺に……。江戸の庶民の哀歓を映しながら、同時代人から見た「忠臣蔵」の実相を鮮やかに捉えた、連作時代小説。(Amazon「内容紹介」より)

犬を飼う女

犬の番という仕事の紹介先では、妾暮らしのおとよという女が、飼っている犬が何者かに狙われているという。この時代、将軍綱吉の「生類憐みの令」が活きており、もしその犬に何かあれば、その咎は飼い主の旦那、田倉屋におよぶのだった。

娘が消えた

神田駿河町の油問屋の清水屋の娘おようの付添いの仕事を請けた。ある日付添いの途中、丁度又八郎に刺客が討ちかかってきたすきに、おようがいなくなっていた。おようの小唄の稽古先である芳之助の家に行き、同じ弟子の中の経師屋の喜八という男のことを聞き、喜八の家へ行くと何者かに襲われるのだった。

梶川の姪

浅野の浪士に命を狙われているという旗本の梶川与惣兵衛の用心棒についた。しかし、屋敷から抜け出した梶川の姪の千加が、石黒滋之丞という男に脅されているのを目撃するのだった。

夜鷹斬り

ある夜、又八郎の迎えが送れたため、同じ長屋の夜鷹のおさきは殺されてしまう。おさきは数日前に「大石って人が、間もなく江戸に来るらしい」という話をしていたというのだった。

夜の老中

細谷が怪我をした仕事の後を請けると、小笠原佐渡守の屋敷で外出の折の警護を頼むということだった。奥方らしき女性に浮気の証拠をつかみたいと頼まれるが、しかし、雇い主である殿様は、浅野家に好意を持つものの会合へ出ているのだった。

内儀の腕

日比谷町の呉服問屋備前屋の内儀のおちせの外出の折の警護の仕事だった。どうも内儀のおちせの過去に島送りになった益蔵という男がいたらしいのだ。ある日、おちせの寺詣りで、おちせが吉田忠左衛門と名乗る男と会っているのを知った。

代稽古

吉蔵から紹介された仕事は長江長左衛門が道場主をする町道場の手伝いだった。たまたま顔を見に来た細谷が、長江の道場を訪ねてきた客は浅野の旧家臣の神崎与五郎ではないかというのだった。

内蔵助の宿

ある日、おりんから、先日の道場主の長江の本名は堀部安兵衛といい、おりんがつけていた老人はやはり浅野浪人の原惣右衛門だという。翌日吉蔵の紹介で川崎宿の北の山本長左衛門の隠宅へと向かった。そこで守るべき垣見という男は大石内蔵助だった。

吉良邸の前日

又八郎は細谷と共に吉良邸の用心棒の仕事を請けることとした。そこに土屋清之進が、由亀からの帰ってきてほしいという手紙と明後日に浅野浪士の討ち入りがあるという知らせを持ってきた。

最後の用心棒

国元近く、一人の娘が不意に襲ってきた。太ももを傷つけた娘を助けようとしたすきに斬りかかってきた男は大富静馬と名乗り、斬るのは今ではないとして立ち去るのだった。佐知と名乗る娘を近くの農家まで届け、間宮に会うと、医師の広瀬幸伯が、壱岐守は大富に毒殺されたの証拠を挙げて言い残して病死したというのだった。

 

用心棒日月抄』について

 

本書『用心棒日月抄』は『用心棒日月抄シリーズ』の第一弾の連作の痛快時代小説ですが、もはや細かなエピソードをつないだ一編の長編小説と言うべきかとも思います。

本書は藤沢周平のほかの作品に比べると活劇の要素が強く、特徴である情景描写の場面は少ないように思えます。

いわゆる痛快活劇小説といってもいいと思うのですが、でありながらも情感豊かな描写は変わらず、やはり面白く引き込めれる作品であることは変わりません。

 

本書は、主人公の青江又八郎自身が刺客に狙われたりする日々であり、浪人青江の日常を描き出してあります。

この青江又八郎は、「擦れ違う女が時どき振りかえる」ような男であって、家老大富丹後による藩主毒殺の話を許婚の父親の平沼喜左衛門に知らせたところ、逆に切りつけられてこれを返り討ちにしてしまい、脱藩する羽目になってしまったのです。

そのため、江戸で知り合った相棒の細谷源太夫らと共に行う用心棒暮らしの間に、国元からの刺客に襲われることも覚悟しながらの日々を送っています。

 

本書の特徴は、又八郎の用心棒稼業の日常を描きながら、忠臣蔵の物語を絡めてあるところでしょう。

といっても、又八郎が赤穂浪士の仲間になるなどというものではありません。

各話の随所に赤穂浪士の話が噂話として聞こえてきたり、仕事先の依頼人が赤穂浪士の関係者であったり、更には赤穂浪士本人だったりと、赤穂浪士の周辺から彼らの討入りを見つめることになるのです。

 

藤沢周平という作家は、その抒情性こそが一番の魅力だと思っていますが、本書ではその抒情性はあまり前面には出てきていないようです。

とはいえ全くないわけではなく、又八郎の生活を緻密に描いていく中で、折にふれ藤沢周平の作品だと感じさせてくれます。

[投稿日]2018年09月08日  [最終更新日]2025年4月27日

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関連リンク

藤沢周平 『用心棒日月抄』 | 新潮社
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藤沢周平の「用心棒日月抄 第1巻」を読んだ感想とあらすじ(面白い!)
本作では常に主人公の近くで「忠臣蔵」の赤穂浪人側や吉良側の人間が動いている。その「忠臣蔵」の進行具合に合わせて、青江又八郎の近辺の状況も進行している。

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