壷振りの市蔵は、賭場の帰り、大川端で竹を杖に歩く稽古をする足の悪い少女に出会う。ひたむきな姿に、ふとかたぎの暮らしをとりもどしたいと思う市蔵だが、所詮、叶わぬ願いだった―。江戸の市井を舞台に、小さな願いに夢を見ながら、現実に破れていく男女の哀切な姿を描く初期の傑作短篇6篇を収録。
藤沢周平デビューから三年後の1976に出版された短編集であり、『暗殺の年輪』同様の藤沢周平という作家の初期の短編作品集です。
「暁のひかり」 病で歩けない身でありながら必死に歩く練習をしようとする少女と知り合った壺振り師の市蔵だった。しかし市蔵はその少女の危険に祭司、自分の真の姿を見せてしまうのです。
「馬五郎焼身」 娘を女房が目を離したすきの事故で失い、ほおずき長屋の嫌われ者となるほどにすさんでいた馬五郎の物語。
「おふく」 女衒に売られていった幼馴染みのおふくを探していた造酒蔵は、木場の宗左の子分になり、恐喝の手伝いをする中、おなみという女と出会う。
「穴熊」 惚れていた娘を探していた浅次郎は、隠れ淫売の操り主の赤六からその娘に似ていると紹介された女が気になり、その女のため、女の夫の侍にとある仕事を断つだわせることにした。
「しぶとい連中」 身投げをしようといていた親子を助けた熊蔵は、その親子をひと晩泊めることになってしまい、さらに居ついてしまうのだった。
「冬の潮」 事故で突然死んでしまった息子の芳太郎の嫁のおぬいを実家に戻すことにした市兵衛は、百両という金を持たせた。だが、その後、おぬいは水茶屋に出ているという話を聞くのだった。
『暗殺の年輪』同様に救いの無い作品集だと言えますが、その一方『暗殺の年輪』ほどに暗くはない感じもします。
物語としては「しぶとい連中」を除いては哀しみに満ちた作品ばかりです。
自分の純な想いを伝えようとするも、その思いは伝わらず意図しない路へと踏み出すことになったり、思いとは異なる結果を招いたりした人たちの哀切漂う物語です。
そんな中で、「しぶとい連中」はこの頃の藤井沢作品にしては珍しく、ユーモアあふれた作品となっています。
こうした点が『暗殺の年輪』とは異なると言えるところでしょう。