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福井 晴敏 雑感

スケールの大きな小説を書く人です。それでいて、ディテールまでこだわっておられるようで実に細かなところまで書き込まれています。

多くの作品で舞台となる世界は共通していて、防衛庁情報局のDAIS(ダイス)という架空の組織や特定の個人が複数の作品にわたって登場しています。

少々無理と思われる設定でさえも押し切ってしまい、それがあまり違和感も無く物語として成立するのは筆力のためでしょうか。それでいて、人間関係もかなり細かく描写してあるので夫々の立ち位置がはっきりしており、読み進む上でメリハリが付いて、読みやすさの一因ともなっているようです。

また、自衛隊がかなり重要な位置を占める作品が多く見受けられます。思想的にはどうなのかは良く分かりません。本人の言葉として「書いた時にはそれほどでもなかったテーマが、数年のうちに時代の方が作品に追いついてきた」という意味のことを言っておられます。あくまでアクション小説の舞台としての自衛隊を描いたのに結果としてリアリティーを持ってきたに過ぎないのか、そもそも「国を守る」意識の薄いと思われる現代に対する警鐘としてのきもちがあったのかは不明です。

描写が詳細にわたるためどの物語も長文になっています。構成のしっかりした、重厚の物語を読み込みたいひとにはうってつけでしょう。当たり前ですが、軽い物語を読みたい人には向かないと思います。

[投稿日] 2015年04月18日  [最終更新日] 2015年5月22日
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