「右手を見せてくれ」。スーパーで万引犯を捕捉する女性保安士・八木薔子のもとを訪れた刑事が尋ねる。3年前に別れた不倫相手の妻が殺害されたのだ。夫の不貞相手として多額の慰謝料をむしり取られた彼女にかかった殺人容疑。彼女の腕にある傷痕は何を意味するのか!?第42回江戸川乱歩賞受賞の本格長編推理。(「BOOK」データベースより)
八木薔子シリーズの一冊目であり、第42回江戸川乱歩賞を受賞した長編推理小説です。
主人公はスルガ警備保障に勤務する女性保安士、つまりは万引Gメンであり、スーパーで万引き犯をつかまえることを業としています。保安士になる前は大手証券会社に勤めていたのですが、不倫相手の妻に不倫をとがめられ、四百万円の慰謝料を支払い、勤めていた証券会社を辞めることになったという過去がありました。
本書は、その時の薔子の不倫相手である木島の妻が殺されたというところから物語が始まります。当然のことながら八木薔子の職場に二人の刑事が訪ねてきて昨日のアリバイを聞いてきます。そこで自らの無実を立証するためにも、自分で調査を始めるというものです。
幸いにも上司に理解があって、事件の調査にも便利な地域にある職場へ転勤させてもらい、また、事件の調査をしながらの勤務であるため本来の保安士の職務を十分行えていないことも大目に見てもらっています。
現実問題としてこのような仕事ぶりが認められるかは大いに疑問のあるところですが、素人の調査の補完要員として探偵を登場させ、八木の調査を手助けさせるなど、一応話の筋は通っています。
本書での、八木薔子というキャラクターは未だそれほどに個性のある存在とまでは至っていませんが、保安士という珍しい設定は面白く読みました。万引きという犯罪の実態、その手口、それに対する店側の対応、プロの万引きGメンとの駆け引きの実態など、かなり詳しく描写してあります。
同じ頃に読んだ小説に、深町秋生の『探偵は女手ひとつ』という作品がありました。こちらは女性私立探偵が主人公のハードボイルドだったのですが、この主人公もアルバイトとして万引きの取り締まりをも行うのです。この作品でも万引きの実態を少し触れてあったのですが、本書の説明には当然のことながらかないません。
本書の主人公八木薔子は保安士としての活躍は一応本書だけで、このあとはガードマンとしての活躍に移ります。未読なのでよく分かりませんが、保安士からガードマンへの異動の詳細は、シリーズ第三弾の短編集『ターニング・ポイント ボディガード八木薔子』に書いてありそうです。読んだらこの項も修正します。
なお、本書はフジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」で天海祐希主演でドラマ化されています。