渡辺 容子

イラスト1

左手に告げるなかれ』とは

 

本書『左手に告げるなかれ』は『八木薔子シリーズ』の一冊目であり、文庫本で434頁の、第42回江戸川乱歩賞を受賞した長編推理小説です。

 

左手に告げるなかれ』の簡単なあらすじ

 

右手を見せてくれ」。スーパーで万引犯を捕捉する女性保安士・八木薔子のもとを訪れた刑事が尋ねる。3年前に別れた不倫相手の妻が殺害されたのだ。夫の不貞相手として多額の慰謝料をむしり取られた彼女にかかった殺人容疑。彼女の腕にある傷痕は何を意味するのか!?第42回江戸川乱歩賞受賞の本格長編推理。(「BOOK」データベースより)

 

 

左手に告げるなかれ』の感想

 

本書『左手に告げるなかれ』の主人公は八木薔子という女性であり、スルガ警備保障に勤務する女性保安士、つまりは万引Gメンとしてスーパーで万引き犯をつかまえることを業としています。

保安士になる前は大手証券会社に勤めていたのですが、不倫相手の妻に不倫をとがめられ、四百万円の慰謝料を支払い勤めていた証券会社を辞めることになったという過去がありました。

本書は、その時の薔子の不倫相手である木島の妻が殺されたというところから物語が始まります。

当然のことながら八木薔子の職場に二人の刑事が訪ねてきて昨日のアリバイを聞いてきます。そこで自らの無実を立証するためにも、自分で調査を始めるというものです。

幸いにも上司に理解があって、事件の調査にも便利な地域にある職場へ転勤させてもらい、また、事件の調査をしながらの勤務であるため本来の保安士の職務を十分行えていないことも大目に見てもらっています。

現実問題としてこのような仕事ぶりが認められるかは大いに疑問のあるところですが、素人の調査の補完要員として探偵を登場させ、八木の調査を手助けさせるなど、一応話の筋は通っています。

本書での、八木薔子というキャラクターは未だそれほどに個性のある存在とまでは至っていませんが、保安士という珍しい設定は面白く読みました。

万引きという犯罪の実態、その手口、それに対する店側の対応、プロの万引きGメンとの駆け引きの実態など、かなり詳しく描写してあります。

 

同じ頃に読んだ小説に、深町秋生の『探偵は女手ひとつ: シングルマザー探偵の事件日誌』というハードボイルド作品がありました。

この作品の主人公の女性私立探偵もアルバイトとして万引きの取り締まりをも行い、万引きの実態を少し触れてあったのですが、本書の説明には当然のことながらかないません。

本書『左手に告げるなかれ』の主人公八木薔子は保安士としての活躍は一応本書だけで、このあとはガードマンとしての活躍に移ります。

未読なのでよく分かりませんが、保安士からガードマンへの異動の詳細は、シリーズ第三弾の短編集『ターニング・ポイント ボディガード八木薔子』に書いてありそうです。読んだらこの項も修正します。

なお、本書はフジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」で天海祐希主演でドラマ化されています。

 

[投稿日]2017年05月31日  [最終更新日]2023年5月6日

おすすめの小説

女性を主人公に描いた推理小説

女性秘匿捜査官・原麻希シリーズ ( 吉川英梨 )
警視庁鑑識課に勤める原麻希は、かつての上司の戸倉加奈子と共にそれぞれの子供を誘拐され、誘拐犯の指示に従うようにと指示される。そこにはかつて壊滅したはずのテロ集団「背望会」の影が見えるのだった。
アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 ( 深町 秋生 )
真相究明のためなら手段を選ばず、警視総監賞や方面本部賞を何度も受けている警視庁上野署組織犯罪対策課の美人刑事八神瑛子が躍動する、ジェットコースター警察小説。
探偵は女手ひとつ ( 深町 秋生 )
『果てしなき渇き』で第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の、椎名留美という女性が主人公であるハードボイルドの六編からなる連作の短編小説集です。
凍える牙 ( 乃南 アサ )
「女刑事・音道貴子シリーズ」の一冊で、重厚な作品で読み応えがあります。直木賞受賞作です。
姫川玲子シリーズ ( 誉田 哲也 )
「姫川玲子シリーズ」の一作目であり、警視庁捜査一課殺人犯捜査係の姫川玲子を中心に、刑事たちの活躍が描かれます。若干猟奇的な描写が入りますが、スピーディーな展開は面白いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です