大沢 在昌

魔女シリーズ

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特殊能力を活かし、裏のコンサルタントとして生きる女・水原は、旧知の湯浅に堂上という男の調査を依頼される。実は堂上の正体は新種の頂点捕食者―人のエネルギーを摂取して生きる―であることが判明し、さらに中国で要人暗殺に係わった頂捕が日本に潜入しているという。そんな折、水原と接触した堂上が行方を絶つ。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

水原は、自分の存在意義や能力を知らされた中国人の頂点捕食者が、ある目的をもって日本にやってきたと推測する。彼らの参謀は誰か、そして目的とは―。堂上は殺され、水原は中国人頂捕たちの行方を追うが、逆に中国安全部に拉致される。その裏では、国家的な陰謀が蠢いていた。「魔女」シリーズ第3弾。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

大沢在昌著の『魔女の盟約』は、『魔女シリーズ』も第三巻目となる長編のハードボイルドエンターテイメント小説です。

 

登場人物
水原 裏社会のコンサルタント。男の人間性を一瞬で見抜く能力を持つ。
星川 元警官で性転換した私立探偵。水原の相棒。
湯浅 元警視庁公安部の刑事。現在は国家安全保障局(NSS)に所属
堂上保 東京・虎の門の古美術店「堂上堂」のオーナー。
須藤謙作 大阪の探偵。関西の広域暴力団・星稜会の依頼で堂上を調査中。
西岡タカシ ウエストコースト興産の事実上の経営者。
酒井 健康開発総合研究センターで頂点捕食者理論を専門にする女性研究員。
森まなみ ウエストコースト興産北京支店社員。
希家貴 ウエストコースト興産北京支店社員。
江峰 中国人グループのリーダー。日本に潜伏中。

 

前巻で韓国とさらには中国の国家機関まで巻き込んで一大スケールアップした展開を見せたこのシリーズでしたが、今回は“頂点捕食者”なる存在を引っ張り出し、また中国安全部を巻き込んだ、人間という存在そのものへの考察を不可避とする物語を繰り広げています。

 

これまでもシリーズのサブメンバー的に登場してきていた湯浅から頼まれ、水原は堂上という男の調査を依頼されます。しかし、彼は水原の能力をもってしてもその人間性を全く感知できない男でした。

じつは堂上という男は、生態系の中で最上位に位置する、他人の生命力を吸い取る能力を持った「頂点捕食者」と名付けられた一億人に一人の割合で発言するらしい、“新人類”ともいうべき存在だったのです。

そこに中国の国家主席に対する「頂点捕食者」による暗殺計画の話が絡んできます。

湯浅は、十四億人弱という人口を有する中国には十人以上の頂点捕食者がいるはずであり、そのうちの何人かが日本に来ていて、中国安全部の人間も彼らを捕らえるために来日しているというのです。

そこに、これまでも水原と因縁の深い西岡タカシが経営するがウエストコースト興産絡んできたのでした。

 

本シリーズは、男の人間性を見抜く能力を持つ女という、そもそもの設定自体がかなり突飛なものでしたが、巻を重ねるごとに一段とその度合いを増しています。

多分シリーズ最終巻となる本書では、動物の生態系の頂点にいる存在まで出てきました。それが「頂点捕食者」と名付けられた存在で、他者の生命エネルギーを吸い取り、それを自らのものとするのです。

地球上の動物の頂点にいると考えられている人類は、自分が食物にされることのない最上位の捕食者であるにはその数が多すぎ、自然の摂理は新たな頂点捕食者を創り出すというのです。

ただ、食物連鎖緒の頂点にいるにしてはその数が少なすぎ、また攻撃能力も有していないというのは自らの存在を確保し難く、自然の摂理が生み出すにしてはあまりに弱い存在である気もしますが、それはまあいいでしょう。

ここらの問題を突き詰めていくと、増えすぎた人間存在への考察へと進み、戦争や飢餓などの集団殺戮へと行きそうになり、収拾がつかなくなりそうです。

 

ともあれ、そうした存在として堂上という男が登場します。この男が存在感があります。この堂上と水原との会話は大人の会話としてかなり読みごたえがありました。

特に堂上が水原を評価する場面は、常に自分の存在を否定しがちに思える水原の内面をも見抜いているようです。水原に「問題は、すべきでないことをあの人にしていると、思っているあたし」と言わせるほどですから。

こうした会話の場面を書けること自体が、大沢在昌という作家の力量を示しているといえるのでしょう。

 

一億人に一人という存在を設定したことで、日本には一人、もしかしたら二人の「頂点捕食者」がいることになります。

それに対し、中国には十人以上の「頂点捕食者」がいる筈であり、当然中国政府が知らない筈はありません。そして中国安全部が絡んでくる話になってきます。

更には、西岡タカシや星稜会も加わり、いつものサスペンスアクション小説としての展開となるのですが、どうしても水原やその相棒的存在の星川との会話や水原の独白なりが増えています。

それは、この作者らしく、荒唐無稽な舞台設定なりのリアリティを追及してあるため、どうしても物語の流れを整理していく必要があるのでしょう。

しかし、前巻でも感じたように、人間関係が入り組みすぎて、若干筋を見失いがちになりました。その点がもう少し単純であれば読みやすいかとは思った次第です。

 

最終的に思いもかけない形でこの物語は終わりますが、その結論には異論もあるところかもしれません。とはいえ、それ以外にはない気もします。

 

読み終えて、大沢在昌という作家に対しての私の好みとしては、『新宿鮫シリーズ』や『狩人シリーズ』(Kindle版)をはじめとする地に足の着いたハードボイルドをこそ読みたいのだ、と改めて思いました。

 

[投稿日]2019年05月09日  [最終更新日]2019年5月9日
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