『マリスアングル』とは
本書『マリスアングル』は、2023年10月に408頁のハードカバーで光文社から刊行された長編の警察小説で、『姫川玲子シリーズ』の第十弾となる作品です。
この人の作品にはずれはありませんが、中でもこの『姫川玲子シリーズ』はその一番手であり、本書もまたその例に違わない作品でした。
『マリスアングル』の簡単なあらすじ
塞がれた窓、防音壁、追加錠…監禁目的の改築が施された民家で男性死体が発見された。警視庁捜査一課殺人班十一係主任、姫川玲子が特捜に入るも、現場は証拠が隠滅されていて糸口はない。犯人はなんの目的で死体を放置したのか?玲子の天性の勘と閃き、そして久江の心に寄り添う聞き込みで捜査が進展すると、思いもよらない人物が浮かび上がってきてー誉田ワールド、もう一人の重要人物・魚住久江が合流し、姫川班が鮮烈な進化を遂げるシリーズ第10作!(「BOOK」データベースより)
『マリスアングル』の感想
本書『マリスアングル』は、『姫川玲子シリーズ』の第十弾となる作品です。
『姫川玲子シリーズ』の出版冊数からすると十一番目になると思われるのですが、第五弾の『感染遊戯』をシリーズ関連作としてシリーズない作品としては計算してないことにあるようです。( 姫川玲子シリーズ 公式サイト : 参照 )
この点に関しては、著者の誉田哲也自身がはっきりと自身の筆で、『感染遊戯』は「姫川玲子シリーズにはカウントしないこととする。」と書かれておられます。( Book Bang : 参照 )
出版社の「内容紹介」にも『姫川玲子シリーズ』の第十弾作品と書いてあります。
そうした形式的なことはさておいて本書の内容ですが、『姫川玲子シリーズ』の中でも事件の解決に向けた捜査の様子がストレートに記述されている、わりとオーソドックスなタッチの物語だと言えるのではないでしょうか。
ただ、物語の展開はオーソドックスだと言えても、その語られている内容は誉田哲也の作品らしい作品です。
というのも、著者の誉田哲也の作品では、現実の政治情勢を取り込んで作品内で起きる事件の背景に据えていることが少なからずありますが、本書で犯される犯罪の根底には、現実に起きた朝日新聞の慰安婦報道に関する問題が横たわっているからです。
ただ、本書では慰安婦の記事が全くの捏造であることを前提として取り上げてあり点には注意が必要だと思われます。実際の朝日新聞の問題はネット上に多くのサイトがあふれていますが、下記サイトに詳しく書いてありますので、関心がある方は参照して見て下さい。
本書『マリスアングル』の物語は、読者がそうした社会的な出来事について知見が無かったとしても楽しめる構造になっているので問題はありません。
ただ、誉田哲也の作品内で取り上げられている現実の出来事についてエンターテイメントとしての取り上げ方をしてあるので、作品に書かれていることが真実であるかのように思われる危険性はあると思われます。
そのことの是非をここで取り上げるつもりもありませんが、読者自身があくまで虚構であることを認識したうえで読み進めるべきかと思います。
そうした姿勢がある以上は、誉田哲也の作品で現実の政治的な状況への関心が生まれ、正確な情報に接する気持ちが生まれればそれは作者としても一つの狙いであるのかもしれません。
何と言っても本書の見どころと言えば、本シリーズと誉田哲也の別の人気シリーズである『魚住久江シリーズ』が合体し、姫川玲子の班に魚住久江が加わり、新たなチームとしての魅力が加わっているところです。
魚住久江という強烈な個性を持った女性の視点が新たに加わることで、姫川玲子という人間像が一段と明確になっていくというべきかもしれません。
その上で、どちらかというと、姫川玲子個人の危うさを取り上げ、姫川の保護者的立場の存在として魚住を異動させていると思われるのです。
ということで、本書『マリスアングル』は朝日新聞の慰安婦報道問題をテーマとして取り上げながらも、シリーズとしては姫川玲子個人のキャラクターをより深く描き出してあるのです。
といっても、魚住久江が異動してきたまだ日が浅く、姫川との絡みは今後さらに深くなっていくものと思われます。
その時の姫川玲子の描写を楽しみにしつつ、続巻を期待したいと思います。