中山 七里 雑感
1961年、岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し2010年にデビュー。音楽を題材とした岬洋介シリーズほか、ミステリーを軸に、さまざまな社会問題をテーマに精力的に執筆を続けている。近著に『追憶の夜想曲』『アポロンの嘲笑』『テミスの剣』などがある。(中山七里 著者プロフィール | 新潮社 : 参照)
音楽ミステリーである「岬洋介シリーズ」を二冊読んだだけなので、他の作風を知らないのだけれど、ネットで調べる限りでは、法廷ものの『御子柴礼司シリーズ』や警察ものの『刑事犬養隼人シリーズ』、それに法医学ミステリーの『ヒポクラテスシリーズ』などを始め、単発作品での『連続殺人鬼カエル男』のような猟奇的タッチの社会派ミステリーなどとその作業の範囲は多岐にわたっているようです。
プロフィールからも分かるように、そのデビューは四十歳を超えてからと遅いのですが、一旦高い評価を受けてからはかなりのペースで作品を発表されています。
この作者は「まずテーマがあり、テーマに合うストーリーは何かと考え、キャラクターを造型し、それからトリックを考える、というように演繹的に小説を作ってい」くのだそうです。それは「最初から演繹的に小説を創」り出すほうが、「途中で齟齬があった時に修正が難し」くないからだと言います。(著者との60分 : 参照 )
また、インタビューを読んでいると、「営業の話の鉄則というのがあって、仕事の話は3分で終われ。あとの時間はだべろ。その無難な話の時に、相手の趣味嗜好だとか、考え方を知れというのが営業なんです。」などと言う言葉が出てきます。待ち合わせの場所に早く来る理由として、「社会人は早く行くものでしょ。」などと言う言葉がさらりと出てくる。それが常識だし、当然のことだと言われるのです。(新人作家の心得 : 参照 )
この作者の作品には、このようなサラリーマンの経験が長い作者だからこそ、また社会人として様々な人々を見てきたからこその目線が、随所に表れているように思われます。まだ数冊しか読んではいないのですが、岬洋介という探偵役の言葉も、サラリーマン経験の長い作者というフィルターを通して見ると、素直な言葉だと改めて感じるのです。
加えて、デビュー作の『さよならドビュッシー』で示された音楽を文章で表現する能力の素晴らしさがあります。やはり持って生まれたものとしか言いようがないのですが、ご本人は、もともとクラシック音楽に興味は「なかったですし、僕は何の楽器もできません。シリーズ2作目の『おやすみラフマニノフ』も最新刊の『いつまでもショパン』も、そうやってCDを聴いて、といっても数回聴く程度です」、「僕自身がクラシック音楽に関して素人なので、その目線で書けば、ピアノを弾いたことがない方にも分かりやすく伝わるんじゃないかと。」と言われています。(著者インタビュー - 中山七里『さよならドビュッシー』 : 参照 )
何の素養もない方があれほどの文章を書けるのだとはとても信じられないのですが、ご本人がそう言われる以上は信じるしかありません。こうした言葉も、すべては、読者に分かりやすく、という姿勢からくるものだと思われます。
今後、他の作品を読み続けることと思うので、本ページはまたその時に追加修正します。