『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』とは
本書『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』は『組織犯罪対策課 八神瑛子シリーズ』の第一弾で、2011年7月に273頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。
女性版の悪徳刑事ものであり、目的のためには手段を選ばない女性刑事の活躍が小気味よいタッチで描かれています。
『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』の簡単なあらすじ
暴力を躊躇わず、金で同僚を飼い、悪党と手を結ぶ。上野署組織犯罪対策課の八神瑛子は誰もが認める美貌を持つが、容姿から想像できない苛烈な捜査で数々の犯人を挙げてきた。そんな瑛子が世間を震撼させる女子大生刺殺事件を調べ始める…。真相究明のためなら手段を選ばない、危険な女刑事が躍動する、ジェットコースター警察小説シリーズ誕生。(「BOOK」データベースより)
暴力団千波組の組長の娘が殺されたが捜査本部には入れてもらえないでいた八神瑛子は、裏社会のボス劉英麗の頼みで馬岳というブローカーを探していた。
そこに新たな殺人事件が起きた。被害者は林娜という中国人の若い娘であり、劉英麗によると、貴州省の山奥から出てきた娘で、馬岳によって新橋のエステに売り飛ばされたという。
瑛子が調べだした情報をもとに、馬岳が現れたところを里美の応援で何とか捕まえるのだった。
上野署署長の富永は、きな臭い瑛子の行動に対し合同捜査本部へ加わり川上と組むことを命じる。
瑛子は、劉英麗から聞いた郭在輝を訪ね、林娜が映った裏ビデオの詳細を聞き出し、犯人と思しき長尾進があるフィットネスクラブにいることを突き止める。しかし、事件はこれで終わったわけではなかった。
『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』の感想
本書『アウトバーン』は、ミステリーとしてはよくできているとは言い難いかもしれません。
犯人逮捕に結びつく肝心な情報は劉英麗のような八神瑛子独自の裏社会を通じた情報網からわりと簡単にもたらされ、他の警察小説であるような捜査や推理の結果ではありません。
しかし、そうした裏社会からもたらされる情報も、瑛子自身が普段から情報網を丁寧に作り上げていたからこその話であり、そういう意味では瑛子の努力により情報が集まってくると言えるのでしょう。
その点で、通常の謎解きミステリーではなく、裏社会と瑛子とのつながりこそ重要であり、そのつながりを重点的に描く作品という意味で普通のミステリーとは異なると思うのです。
本シリーズの面白さは、何といっても八神瑛子というキャラクターにあります。
誰しもが認める美人でありながら汚れ仕事に手を染めることを厭わず、それどころか警察官を相手に金貸しをやっており、その引き換えにその警察官の弱点を抑え、いざという時は自分の言うことを聞かます。
勿論、やくざらから情報と引き換えに金を受け取ることも当たり前であり、剣道三段の腕っぷしで、度胸も満点の女性です。
また、瑛子が勤務する上野署の署長である富永昌弘をはじめとする登場人物たちが個性的です。ほかに、元女子プロレスラーの落合里美や瑛子を裏社会から支える劉英麗という蛇頭のボスや、千波組若手幹部の甲斐道明など魅力的です。
特に富永は警察官として一途であり、その内心の変化の描写には面白いものがあります。また、仙波組の甲斐も面白い存在ですが、もう少し書き込みが欲しいところではありました。
本書は今回再読したものですが、初回に比べより面白さを感じたように思います。それは再読したことで八神瑛子というキャラクターをより知ったということなのかもしれません。
ともあれ、初回読了時に思ったよりも魅力的なキャラクターであったようです。