わけあって豊後森藩を脱藩し、研ぎ仕事で稼ぎながら長屋に暮らす赤目小籐次。ある夕、長屋の元差配・新兵衛の姿が忽然と消えた。さらに数日後、小籐次の養子・駿太郎らが拐しにあった。一連の事件は小籐次に恨みがある者の仕業なのか。小籐次は拐しに係わった阿波津家の謎に迫る。痛快シリーズ、文春文庫でついにスタート!文春文庫40周年記念書き下ろし。(「BOOK」データベースより)
本書からこのシリーズも新しくなりました。
作者によると、本書は「江戸の知られざる異界をテーマにした」のだそうです。その言葉通りに、新兵衛さんが神隠しにあったのか行方不明になります。また、駿太郎もさらわれてしまいます。
本書自体は、新シリーズになってもこれまで通りの面白さを維持しているようには感じました。しかしながら、新兵衛さんが神隠しに遭うという設定にはどんな意味があるのか、私にはよく分かりませんでした。神隠しそのことが、本書に何らかの意味を附加しているようには思えなかったのです。
また、それとは別に、駿太郎がさらわれてしまうのですが、本書のような手の込んだ手順を踏まなければならなかった理由がよく分かりません。この作者のこれまでの書き方では、何らかの事件はそれなりの必然性を設けてあったと思うのですが、本書の場合、その手順をとる必然性が全く感じされなかったのです。
これらの点を除くと、単に数年が経過しているというだけで、旧シリーズと特別変わったところもなく、大人の事情での出版社の変更というだけのことなのでしょう。
せっかく新シリーズになったのに不満点ばかりを挙げてしまったのですが、結局は新しくなったといっても何らの変化はない、と言ってもよさそうです。ただ、新しいシリーズにかなりの期待を抱いた分、こちらの見方も厳しくなった感は否めません。
「異界」などという変な言葉を持ちこんだだけ深読みしてしまった気もします。
ともあれ、新シリーズとなって、多分ですが新しい敵も登場していると思います。この点はまだはっきりとはしません。できれば、磐根シリーズのように内容の劣化と感じられる変化は無しにしてもらいたいと願うばかりです。
ちなみに、本書のあとがきには、まずは読者へのお詫びが書いてあります。その全文はネット上にもあるので興味のある方はそちらをご覧いただきたいと思います。( 文春:本の話WEB : 参照 )