本『照降町四季シリーズ』は、下駄や草履の鼻緒を挿げることを業とする女職人の姿を描き出した人情小説です。
佐伯作品としては珍しい、町娘が主人公の青春小説で人情小説だと言える、さすがに読ませるシリーズ作品です。
『照降町四季シリーズ』について
佐伯泰英の数多くのシリーズ物の中でも、江戸の町人を主人公にした作品と言えば『鎌倉河岸捕物控シリーズ』しか思い浮かびません。
この作品は鎌倉河岸を舞台に四人の幼馴染の成長を描く物語で、中でも十手を持つようになった政次を中心にした捕物帳でした。
ただもう一冊、私は未読なのではっきりとは言えないのですが、近ごろ出版された『新酒番船』という作品が町人を主人公としているようです。
その上、『照降町四季シリーズ』特設サイトによれば、本シリーズは全四巻となっているそうで、電子書籍、単行本、文庫本が同時に発売され、以降一月ごとに出版されるそうです。
この『照降町四季シリーズ』は、江戸は日本橋近くの魚河岸と芝居町との間に挟まれた、小網町と堀江町との間の、雨の日の傘、晴れの日の下駄・雪駄を売る店が多く軒を連ねていたことから「照降町」と呼ばれていた町を舞台とする物語です。
そこに、魚問屋に奉公していた三郎次と駆け落ちしていた「鼻緒屋」の娘の佳乃が三年ぶりに帰ってくるところからこの物語は始まります。
佳乃は、三郎次から売り飛ばされそうになってやっと目が覚め、愛想をつかして帰ってきたのでした。
登場人物としては、主人公の佳乃、それに佳乃の父親で「鼻緒屋」の二代目の弥兵衛、母親の八重がいます。
それに「鼻緒屋」の手伝いとして八頭司周五郎というもと豊前小倉藩士の浪人がいますが、この人物も過去に秘密を抱えていそうです。
それに、「鼻緒屋」の後ろ盾となっているのが、弥兵衛が暖簾わけをしてもらった下り傘・履物問屋「宮田屋」の主の宮田屋源左衛門がいます。この先、主人公佳乃の力となってくれそうな存在です。
この『照降町四季シリーズ』は「鼻緒屋」の娘が主人公佳乃であり、鼻緒を挿(す)げること、挿げ替えることを仕事とする職人です。
江戸の職人を主人公にした作品もいろいろと描かれていますが、下駄や草履の鼻緒を挿げる職人というのは思いもよらない職業でした。
しかし、考えてみれば下駄の鼻緒がきつすぎたり、緩すぎたりすればとても履きにくいものではあります。その職人がいても不思議ではないでしょう。ただ、現実にその職人がいたのか調べても分かりませんでした。
ただ、「浅草老舗 辻屋本店」のサイトでは下駄や草履などの履物に関する様々な情報を載せてありました。なかでも下記サイトは本書を読むにはいいサイトだと思います。
江戸の町での女職人を主人公にした作品といえば、高田郁の『みをつくし料理帖シリーズ』という作品があります。
この作品は、大阪の「天満一兆庵」の再興を夢に女料理人の澪が江戸の町で困難に立ち向かう姿を描いたベストセラーとなったシリーズ作品です。
また、上絵師として独り立ちしようとする律という娘の一生懸命に生きている姿を描く長編の人情小説である知野みさきが描いた『上絵師 律の似面絵帖シリーズ』という作品もありました。
他にもいろいろな職業の女性を描いた人情小説があります。
本『照降町四季シリーズ』は、これまでの佐伯泰英の作品群とは少し違った、しかしやはり佐伯作品であることは間違いのない、面白いシリーズになりそうです。
先述したように、このシリーズは毎月出版されるということですので、楽しみに待ちたいと思います。
以上は第一巻を読み終えてからの本シリーズに対する期待も込めて書いた文章でした。
やっと本シリーズを読み終た今、結論から言うと、予想に反してこれまでの佐伯泰英の作品とほとんど変わるところのない作品でした。
第一巻『初詣で』こそ女性職人の佳乃の姿を描き出した人情小説の趣を持っていると感じたのですが、第二巻あたりからは鼻緒屋に奉公する素浪人の八頭司周五郎を中心とした物語へと変化していきます。
そして結局はこれまでの佐伯泰英作品とあまり変わらないシリーズになったといえます。
つまりは、新しい佐伯泰英作品として私の期待が高すぎたというべきであり、そうしたハードルを除けば、普通に面白い作品だったといえるのかもしれません。
普通の佐伯泰英作品として読むべきシリーズでした。