本シリーズの主人公お緋名は、「どんな盗人、錠前破りも尻尾を巻いて逃げだす」錠前職人だった父常吉の腕を継いでいる女錠前職人です。このお緋名が「鍵」にまつわる様々な謎をひも解いて行きます。
一作目でお緋名が姉とも慕うお志摩が殺され、その息子孝助は婚約者でもあった髪結いの甚八のもとに引き取られます。本シリーズが展開する時には、お緋名の幼馴染でもある甚八のもとで髪結いの下働きをしています。
その甚八は何かにつけ親代わりのようにお緋名の行動に目を光らせているのです。そして、榎康三郎という浪人が立ち回り担当として配置されていて、お緋名の用心棒的立ち場で活躍しています。
何より忘れてならないのは、もともとお志摩のもとにいた“大福”という猫の存在です。おっとりした性格で、見た目のとおり敏捷さに欠ける、猫らしくない猫だというのですが、この大福が物語の進行上、雰囲気を和らげ、とても良い味を出しています。
時代小説で「猫」に重要な役割を与えている作品といえば、同じ田牧大和による『鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙シリーズ』があります。江戸の根津宮永町にある鯖縞模様の三毛猫が一番いばっている長屋で繰り広げられる人間模様を描き出す人情時代小説です。そう言えば、この鯖猫の飼い主の拾楽も元は盗人でした。
その他には、池波正太郎の『剣客商売シリーズ』の中の『剣客商売 二十番斬り』に収められている「おたま」という短編が、おたまという猫をモチーフに作成された作品です。おたまに導かれた小兵衛が無頼者に襲われていたかつての知人と連れの女を助ける話です。
田牧大和の文章はとても読みやすく、登場人物の心理を情感豊かに、またコミカルな表現も交えながら描き出しています。
宇江佐真理のような人情味豊かでしっとりと心に染み入る文章とは違いますが、それでも季節の風情をそこそこに挟みこんでの心象の描写などは、やはり私の好みに合致したと言い切った方が良さそうです。
2018年6月現在、「緋色からくり」と「数えからくり」の二冊が出ています。
一作目の「緋色からくり」で登場人物の紹介を兼ねた物語が展開し、思いのほかに引き込まれました。二作目でもその面白さを維持しているか心配したのですが、二作目の「数えからくり」もレベルが下がることはありませんでした。面白いシリーズものとして期待して良いのではないでしょうか。