とんずら屋シリーズ(2018年12月19日現在)
十八歳になる弥生は、「弥吉」を名乗り、男姿で船頭として働くいっぽう、夜は裏稼業の逃がし屋、「とんずら」にも余念がない。情に脆く、「とんずら屋」の客にすぐに同情してしまい、女将のお昌とぶつかることもしばしばだ。東慶寺で生まれ、出生の秘密を持つ弥生を取りまくのは、松波屋に拾われた啓次郎、身分を隠し松波屋に逗留する進右衛門など、彼女を助太刀する男性陣。今日も依頼が舞い込んで―。シリーズ第1弾!(「BOOK」データベースより)
夜逃げ屋を主人公とする、長編の痛快人情時代小説です。
主人公は来栖家当主の血を引きながら鎌倉の東慶寺でひっそりと生を受けた弥生という娘です。この子をめぐる御家騒動を縦軸とし、各短編で「とんずら屋」への依頼された仕事をこなす様子を横軸として、二重の面白さを持った物語として描き出しています。
この娘が「とんずら屋」という裏稼業を営む「松波屋」にやってきます。そこには弥生の叔母であり、船宿「松波屋」の女将お昌(おまさ)がいます。お昌は「剛毅で強欲」な女傑であって、裏稼業の元締めでもあります。
また、幼い頃家族を皆殺しにされて自分一人「とんずら屋」に預けられ、お昌の裏稼業の跡継ぎとして育てられた啓次郎もいました。啓次郎は、幼いころ殺された妹の代わりとも思える弥生を助けることに命をかけています。更に、「とんずら屋」の陸(おか)を受け持つ韋駄天の源次(げんじ)もいたのです。
弥生の過去は最初は全く描かれていません。物語が進むにつれ、少しずつ明かされていきます。
「とんずら屋」の裏仕事をやり遂げつつ、弥生の周りにはお家騒動の一方からの手が伸びて来ます。弥生の身を守りながら裏稼業をこなしていく仲間たち。その様子がテンポの良い文章で語られていきます。
ただ、本作は特に弥生の情緒面が前面に出過ぎていて、個人的好みから言えば少々煩わしくも感じました。
そんな個人的好みをも押しのけるほどの物語としての面白さがあります。文章もテンポよく、登場人物の書き込みも十分で、物語の中で自由に動き回っている印象です。だからこそ読みやすく、引き込まれるのでしょう。
既に二作目『仇討 とんずら屋請負帖』も出ています。更に続くことを期待したいものです。