濱次シリーズ(2018年12月19日現在)
- 花合せ 濱次お役者双六
- 質草破り 濱次お役者双六 2ます目
- 翔ぶ梅 濱次お役者双六 3ます目
- 半可心中 濱次お役者双六
- 長屋狂言 濱次お役者双六
出雲阿国が元祖と言われる歌舞伎は多くあった芝居小屋も認可制とされ、江戸時代中期から後期にかけて江戸町奉行所によって歌舞伎興行を許された芝居小屋は中村座・市村座・森田座の三座だけとなりました。これを江戸三座といいます。本書はこの三座の一つ森田座を舞台としています。
主人公は梅村濱次という主役級の役者以下の女形である「中二階女形」です。
濱次の師匠である有島仙雀や森田座の座元である森田勘弥など、濱次の才能に期待しているのですが、本人はいたって呑気で今の身分を楽しんでいるようです。ただ、稽古は嫌いでも怨霊ごとなどには引っ込まれてしまうのです。
同じように踊りの世界を舞台にした物語に、杉本章子の『お狂言師歌吉うきよ暦シリーズ』や近藤史恵の『巴之丞鹿の子』を一作目とする『猿若町捕物帳シリーズ』それに松井今朝子の『風姿花伝三部作』などがあります。
そこでも思ったのですが、私のような人間は”野暮”や”無粋”とは言われたことはあっても、粋(すい)とは縁遠い人間で、勿論、歌舞伎や踊りなど全く分かりません。そうした人にも、踊りや歌舞伎の世界の一端を感じさせてくれる、それが杉本章子や近藤史恵、松井今朝子らの作品であり、本書だと思うのです。
そういう意味で、本書は『お狂言師歌吉うきよ暦シリーズ』が垣間見せてくれる歌舞伎の粋の世界の描写が、少しだけ物足りなく思えました。それでも、濱次と師匠や座元との会話は、見知らぬ世界へと導いてくれます。
ともあれ、この作者は波長が合うのでしょう。もっと色々と読みたいと思わせられる作家さんです。