『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』とは
本書『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』は『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第九弾で、2025年11月に幻冬舎から360頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。
本書でも外国人差別や無責任なSNSへの書き込みなどが取り上げられていて、作者なりの対応が為されている、変わらずに読みやすく面白い作品でした。
『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』の簡単なあらすじ
東京の世田谷区の工事現場で刺殺体が見つかった。第一発見者は、そこで働く南アジア国籍の男性。警視庁捜査一課の樋口班が捜査を進めるなか、SNSでは彼の実名が書き込まれ、外国人であることを理由に犯人ではないかと疑う声が上がる。サイバー犯罪対策課と連携して投稿者の特定を急ぐ樋口。だが、それを嘲笑うかのごとく、発見者の顔写真と現住所まで晒されてしまい、さらには逮捕や強制送還を望む意見まで出てくる…。かつてなく外国人排斥の風潮が強まり、フェイクニュースがあふれるなか、等身大の刑事・樋口は真実を掴むことができるのか。同僚とも家族とも絆が深い名刑事を描く傑作警察小説。(「BOOK」データベースより)
『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』の感想
本書『白露 警視庁強行犯係・樋口顕』は『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の第九弾となる作品です。
近年、なにかと話題になることが多い外国人への差別やSNSへの無責任な書き込みの問題などが取り上げられていて、変わらずに読みやすく面白い作品でした。
本シリーズでは特に警察組織の活動が全体として描かれていることが多いようです。
もともと、今野作品は警察小説の第一人者として、個人の活躍ではなく、チームとしての警察の活躍が描かれていますが、本シリーズは特にその傾向が強いように思えるのです。
人気シリーズの一つである『安積班シリーズ』などもチームとしての安積班の活躍が描かれており、従来の探偵小説とは異なる主人公の性格設定も含め警察官個人ではない組織体としての警察の姿がそこにはあります。
本書が属する『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』と『安積班シリーズ』とはかなり似たところがあるシリーズだとは『警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ』の項でもほんの少しですが書いたところです。
本書では、ある殺人事件で遺体の第一発見者が外国人であったというだけでネット上で不当な扱いを受けたり、現場近くに住むまた違う国のアジア人が疑いの目を向けられたりと、日本人の心に潜む差別意識を暴き出しています。
同時に、第一発見者の実名、勤務先をネット上で晒したりする若者や、現場近くに住む外国人に接触を図ろうとするフリーのジャーナリストと称する男などが登場し、その問題点を指摘しているのです。
本書の作者である今野敏の作品では、こうした社会的な問題点を取り上げることがい多いようです。だからと言って、いわゆる社会派の作品ということではなく、作品はあくまでエンターテイメントであり、気楽に読むことができます。
もっとも、遺体の第一発見者が外国人だから事件現場の近くに住む違う国の外国人に聞きこみに行った方がいい、などという登場人物の一人の意見は、いくら何でもそこまではないだろうという気はしました。
面白いのは、ネット上に他人の実名や住所などを晒す行為をなんとも思っていない若者の行為を明確に分析しているところです。
本書では、荻窪署生活安全課の氏家譲巡査部長という、樋口顕の友人でもあるシリーズの常連が登場し、少年事件の専門家らしい意見を述べています。
とくに、若者によるSNSへの書き込みに関しては、彼らの間で通用している「ノリ」という彼らなりの正義があるというのです。
こうしたネット上での匿名性についての問題点への指摘はよく聞かれるところではありますが、若者の書き込みに関して、ここまではっきりと指摘したものは私の知る限りではなかったように思います。
私たち大人の通常の感覚とは全く異なる彼らの感覚についての氏家の説明は、思わず納得の解説でした。
こうした指摘も含め、エンターテイメント小説としての面白さは十分に満足させてくれるものでした。
本書は、今野作品として、変わらずに読みがいのある作品だったと言えます。