『リミックス 神奈川県警少年捜査課』とは
本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』は『神奈川県警少年捜査課シリーズ』の第三弾で、2024年9月に小学館からハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。
超常的な出来事の起きる伝奇小説と警察小説との合体作品で、今野敏の作品群の中でもどちらかというとあまりお勧めできないと感じた珍しい作品でした。
『リミックス 神奈川県警少年捜査課』の簡単なあらすじ
一気読み必至のエンタメ警察小説! 神奈川県警少年捜査課の高尾と丸木のもとに、旧知の高校生・賀茂が失踪したという報せが届く。賀茂は古代の霊能者・役小角の呪術力を操る不思議な少年だった。賀茂は失踪前、半グレに追われていたという。高尾たちが失踪の経緯を調べると、外国にルーツをもつ若者たちと半グレ集団の間で抗争が起きつつあることが判明する。事態はやがて、カルト的人気を誇る女性ボーカル・ミサキを巻き込んだ誘拐事件へと発展しーー!?(内容紹介(出版社より))
『リミックス 神奈川県警少年捜査課』について
本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』は『神奈川県警少年捜査課シリーズ』の第三弾となる長編の警察小説です。
今野敏の作品としてはストーリ展開は平板であり、登場人物のキャラクターも今一つであって、あまりお勧めできないと感じた珍しい作品でした。
もちろん、本書のような作品が好みだという人も当然多くおられることと思います。
私も、役行者が登場人物の人格を乗っ取り現代社会に現れる、という神秘的な現象をメインとするような伝奇的な物語自体はどちらかというと好きな方です。
しかし、本書では役行者というキャラクターもあまり活躍するわけではなく、伝奇的な要素がどっちつかずです。
また敵役となる半グレたちも現実に聞く半グレとは異なり、普通の不良少年としか思えない存在で、物語としての魅力があまり感じられませんでした。
今野敏の著作では、たまにストーリーは進んでいるような印象ではあるものの、その実物語の展開はほとんど見られない、ということがあります。
本書はまさにその典型と言ってもよさそうな物語であって、頁は進んでもストーリー自体はじれったいほどに進みません。
こうしたことは、今野敏の作品群の中でも超自然的な出来事、現象がテーマになっている作品ほどその傾向が強いように思えます。
本書『リミックス 神奈川県警少年捜査課』でも修験道の開祖と言われる役小角が降臨し、その呪術力を操る高校生である賀茂晶の行動が中心的な謎となっていて、物語自体の展開は本書中盤まで殆どありません。
本書では役小角の行動の先に「一言主」の存在が見えます。「一言主」とは日本の神の一人であり、『古事記』や『日本書紀』、『日本霊異記』などの書物にその名が記されていて、時代が下るたびに「一言主」の地位が低下しているそうです( ウィキペディア : 参照 )。
当然のことながら上記のことは本書でも説明してあります。加えて登場人物も、役小角の依巫女であり歌手でもあるミサキや、保護司の葛城氏などが登場し、現場の刑事を混乱させています。
この有言実行の神だと言われる「一言主」の登場は、本書の半グレたちの存在についての主張の一つかもしれません。
つまり、半グレという存在の根っこには会話すらないままでの差別などが存在していて、「一言」の会話こそが大事だという思いです。
でもそうした印象が物語自体の魅力を増幅させるものではありません。物語自体の魅力はやはり物語自体の持つストーリーた登場してくる人物たちの造形にかかっているのであり、その点で本書は今一つだと言わざるを得ないのです。