『署長サスピション』とは
本書『署長サスピション』は『署長シンドロームシリーズ』の第二弾で、2025年4月に講談社から336頁のハードカバーで刊行された長編の警察小説です。
『隠蔽捜査』の舞台となっていた大森署の新任の署長を主人公に展開される、若干の物足りなさはあるものの一応は楽しく読むことができたコメディ小説です。
『署長サスピション』の簡単なあらすじ
近頃、怪盗フェイクという変幻自在の窃盗犯が出没し、大森署の管内の宝飾店を荒らして、マスコミを騒がせていた。そ
んな中、戸高が公務中に競艇で二千万円を当ててしまう。さらに、前回小型核爆弾を守り切った実績により、警察内外の各方面から公金の保護を名目に大金が持ち込まれ、なんと総額一億円が大森署の署長室に…。するとそれを知ってか、怪盗フェイクがSNSで犯行予告!「大森署の署長室にあるお宝をいただく」。なんと日時指定までしてきたのだった。はたして藍本署長たちは、大胆不敵な謎の怪盗から、署長室の金庫に眠る大金と、警察のメンツを守り切れるのかー!?(「BOOK」データベースより)
『署長サスピション』の感想
本書『署長サスピション』は『署長シンドロームシリーズ』の第二弾で、『隠蔽捜査シリーズ』の竜崎伸也署長の後任の藍本小百合署長を中心とした大森署のメンバーの奮闘の様子を描くコメディ小説です。
『署長サスピション』の登場人物
本書でも、主役はもちろん藍本小百合署長ですが、語り手は大森署の貝沼悦郎副署長が務めていて、彼の心象などが詳しく述べられています。
大森署の署長室には、相変わらずに第二方面本部の本部長である弓削篤郎警視正や管理官の野間崎正嗣警視などを始めとするお偉いさん方が藍本署長に会うために足しげく訪ねてこられています。
ほかに、本書では怪盗フェイクという窃盗犯対策のために関本良治刑事課長や、七飯寛(ななえひろし)盗犯係長が頻繁に顔を見せます。
また、署長室の金庫に保管してある詐欺事件の三千万円に関連して警視庁刑事部捜査第二課課長の日向玲治が来ています。
さらには、その金庫にある厚生省のマトリから預かっている五千万円に関連して、厚生労働省の麻薬取締官である黒沢隆義とその黒沢の天敵である組対部薬物銃器対策課の馬渕浩一課長が来ていて、二人の掛け合い漫才を見せてくれます。
そして、戸高刑事が平和島競艇場で購入し当てた二千万円に関して、東京地検特捜部の柳楽検事も登場します。また、藍本署長と戸高刑事の舟券購入に感づいた東邦新聞の記者である長谷川梅蔵記者が貝沼の周りなどに現れるのです。
『署長サスピション』について
主人公の藍本署長は、見た目は初めて会う人はほとんどの人が立ち尽くしてしまうような美貌の持ち主でありながら、本人はそうした認識があるのか不明のままですし、考え方にしても独特の発想を見せ、周りを驚かせています。
その点は前任者である竜崎にも若干似たところもあるようです。
問題は、と言っていいのかはわかりませんが、自分の美貌が周りに特別な影響を与えていることを本人が意識しているのかどうか全くわからないところです。
あくまで貝沼副署長の視点で語られていくので、藍本署長の内面は伺い知ることができないのです。
大森署署長室には、藍本署長に会うためにもともと様々な人たちが訪れるているのですが、上記のように署長室の金庫に入っている一億円をめぐりさらに登場人物が増えているのです。
本シリーズはもちろん「多くの警察関係者が息をのむほどに美しい美貌
」の持ち主である藍本署長の存在自体がコメディの大きな要素になっているのですが、本書ではさらに国家公務員であることを鼻にかける黒沢麻薬取締官という大きなコメディ要素の持ち主もまた前巻に続いて登場していて、馬渕薬物銃器対策課課長との掛け合いをみせてくれています。
前述のように、大森署署長室の金庫の中には詐欺事件関連の三千万円、厚生労働省の麻取関連の五千万円、検察庁関連の二千万円の都合一億円という金銭が収められていました。
そこに、大森署管内で話題になっていた怪盗フェイクと呼ばれる窃盗犯が、大森署の署長室にあるお宝をいただきに来ると日時時を指定してきたのです。
そうしたことから、預かり金のそれぞれについてひと悶着がある上に、さらに署長室の一億円をめぐる騒動が巻き起こることになります。
そうしたユーモア満載の本書ではあるのですが、残念ながら今野作品の中では普通だと言わざるを得ません。
というのも、物語の展開が怪盗フェイク以外に取り上げることもなく、その怪盗フェイクが起こした過去の犯罪はともかく、本書での行為に関してはあまりにあっけなく、特に語るべきところもありません。
強いて言えば、戸高が舟券で当てた二千万円の金の所属先について、検察、警察それぞれの組織で手続きの面倒などの理由で引き受けたがらない中でその去就が気になるくらいです。
ただ、怪盗フェイクに加え、この二千万円の去就に関しても、物語としての決着は特別に取り上げる程の事はなく、実に残念な展開です。
ただ、本書のようなコメディ作品の場合は、そうした野暮なことは言わずに単純に語られるユーモアに浸っていればいいのでしょう。
本書のようなコメディ小説としては、浅田次郎の『きんぴか』(光文社文庫 全三巻)などの作品が思い出されます。
また本書と同じ警察小説で言うと、富樫倫太郎の『生活安全課0係 ファイヤーボール』など挙げることができます。
ずば抜けた頭脳を持っていますが空気の読めないキャリアの小早川冬彦を主人公とした、コミカルな長編の警察小説です。