『職分』とは
本書『職分』は『萩尾警部補シリーズ』の第三弾で、2025年9月に双葉社から264頁のハードカバーで刊行された、長編の警察小説です。
窃盗犯罪を取り締まる盗犯係の職務の説明をはさみながら、個々の事件を解決していく姿が描かれる実に読みやすい作品です。
『職分』の簡単なあらすじ
独り暮らしの老女宅に空き巣が入りブランド品が盗まれた。捜査三課の萩尾秀一と武田秋穂の調べで、盗まれたのは偽物だと判明する。老女は詐欺師に偽物を買わされており、二課詐欺担当の舎人が捜査に介入。萩尾と舎人は捜査方針で対立するのだが…(「職分」より)。ほか、「正当防衛」「粘土板」など七編を収録。(「BOOK」データベースより)
『職分』の感想
本書『職分』は『萩尾警部補シリーズ』の第三弾で、主人公が所属する盗犯係の紹介をはさみつつ、場合によっては捜査一課からの支援依頼をこなしもする、読みやすい警察小説です。
盗犯係が主人公という珍しい設定の警察小説です。
登場人物としては、まずは主役として警視庁捜査第三課盗犯捜査第五係所属の四十八歳の警部補である萩尾秀一が挙げられます。次いで、萩尾の相棒として三十二歳になる武田秋穂がいます。
萩尾は盗犯係のプロとして、盗難現場を見ただけで、主にピッキングの手口などから誰が犯人かをすぐに断定します。
また、盗犯専門の捜査員としての知識をプロフェッショナルとして捜査に生かすことこそ彼らの矜持だと言います。
そんな彼らは、時には捜査一課の応援依頼に応じて殺人現場に出向き、盗犯捜査のプロとしての意見を明言します。つまり、捜査一課の見立てと異なる主張をしたりもするのです。
本書の魅力としては、萩尾秀一という盗犯捜査のプロと、相棒の捜査一課に対するあこがれを持っていそうな武田秋穂というコンビの魅力がまずあります。
萩尾の盗犯捜査とその知識は職人芸に近いとも言えますが、彼はそうした知識は盗犯を捕まえるためにあると言い切るのです。
そうした萩尾の下で、捜査一課の犯罪捜査に対するあこがれを指摘される武田秋穂もまた、窃盗犯人逮捕に対するひらめきを見せ、犯罪捜査に対して貢献をしています。
そうした盗犯関連の一連の流れとは別に、本書では窃盗犯の侵入の手口や犯罪現場での鑑識作業、また一課から七課まである盗犯捜査係などの説明がなされており、読者の好奇心をくすぐってくれるのです。
また、名の知れた窃盗犯人には犯の特徴などを端的に表す「牛丼の松」や「勝手タケ」、「アキバのモリ」などの二つ名があり、彼がもまた本書で活躍の場が与えられています。
ちなみに、本書の「粘土板」というで話では、本シリーズ第二作目の『黙示』で登場してきたIT長者の館脇友久や探偵の石神達彦らの名前も登場しています。
『黙示』は「ソロモンの指輪」が盗まれたというものでしたが、今回は館脇友久が都内に作った博物館に展示予定だった「ギルガメッシュ叙事詩」の粘土板が盗まれたというのです。
『黙示』は作者の今野敏の個人的に関心がある超古代文明について調べた結果を登場人物に語らせるという意味合いが強いものであり、警察小説としては中途な印象の作品でした。
それに比べると本書は萩尾と武田という盗犯係の仕事が前面に押し出されています。
また、今野敏の近時の警察小説ではよく見られますが、ミステリーというよりはお仕事小説的色合いが濃いともいえそうです。
話の気楽さ、読みやすさは言うまでもありませんが、しかし、ミステリーとしての物語の厚みはありません。
それでも、この人の作品は読みたいと思うのです。