今野 敏

萩尾警部補シリーズ

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黙示』とは

本書『黙示』は『萩尾警部補シリーズ』の第三弾で、2020年6月に双葉社からハードカバーで刊行され、2023年7月に双葉文庫から392頁の文庫として出版された、長編の警察小説です。

ただ、古代史を絡めた本作品は安楽椅子探偵を思わせる展開であり、私の好みとは異なる作品でした。

黙示』の簡単なあらすじ

渋谷区の高級住宅街で窃盗事件が発生!警視庁捜査三課の萩尾警部補は、相棒の武田秋穂と現場に向かった。被害者はIT長者の館脇で、盗まれたのは秘宝「ソロモンの指輪」。4億かけて入手したものだという。事件には伝説の「暗殺教団」らが関わっており、館脇は命を狙われているという。実在するとは思えない組織に萩尾は懐疑的で、冷静沈着に捜査を進める。“窃盗捜査の職人刑事”が古代文明の謎に迫る、萩尾警部補シリーズ第三弾!(「BOOK」データベースより)

黙示』の感想

本書『黙示』は『』の第三弾で、作者の好きな古代史をベースにした作品であり、特に『石神達彦シリーズ』のスピンオフ的な立場の作品でもあります。

いわば居ながらにして推論だけで謎を解決する安楽椅子探偵を思わせる展開であり、私の好みとは異なる作品でした。

 

本書『黙示』は石神達彦も登場しており、今野敏の『神々の遺品』『海に消えた神々』と続く『石神達彦シリーズ』の第三弾とも言えそうです。

しかし、本書での石神は脇役に徹しており『石神達彦シリーズ』に属する作品だとは言いにくいでしょう。

とはいえ、石神も重要な登場人物の一人であることには変わりはありません。


 

今野敏という作家の古代史関連の作品、特に『石神達彦シリーズ』は、確かにこの作者がかなり詳しく調べて書かれたでしょう。

しかし、小説としては、作者の調査事項を登場人物に語らせることが主軸であり、物語のストーリー自体は好みとは外れたものだったと覚えています。

本書『黙示』もまた同様で、被害者である館脇友久や、舘脇から依頼を請けた私立探偵の石神達彦、美術館のキュレーターであり贋作師でもある音川理一といった登場人物らが、萩尾警部補とその相棒の武田秋穂などにソロモンの秘宝などの古代文明について教え、説明しながら情報を語っています。

 

そもそも、私自身は超古代文明をテーマにした小説は決して嫌いではなく、どちらかというと好みの分野でもあります。

とはいっても、物語の中に古代文明を思わせる人物や道具が出てくる作品のことであり、古代文明を直接の舞台にした小説は知りません。

それでも例えば、高橋克彦のSF伝奇作品の『総門谷シリーズ』などは、直接に古代文明をテーマにした小説だと言えると思います。

総門と名乗る超能力者が率いる一団と主人公との争いを描いていたと思うのですが、かなり前に読んだのではっきりとは覚えていません。あまりに話が広がりすぎて収拾がつかない印象があって、一巻を読んだだけでやめてしまいました。

一方、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』の中では、古代ギリシャの哲学者プラトンがアトランティス司政官オリオナエの眼を通してアトランティスの滅亡をみる場面が描かれています。

この作品は実に面白く読んだ作品であって、SF小説のなかでも名作といえるでしょうし、こうした作品も挙げてもいいかと思われます。


 

本書『黙示』に話を戻すと、古代文明の説明的な物語になっているという点を除くと、ドロ刑としての萩尾警部補らの捜査およびその推論自体はそれなりの面白さはあります。

そして、彼らの捜査の一環として被害者である館脇らにソロモンの指輪、その指輪の背景としての古代文明の知識を聞くという流れ自体は不自然でもありません。

ただ、古代文明についての知識の開陳がくどく感じられ、警察小説としての犯罪捜査の側面がかすんでしまっているのです。

もちろん、金属を溶かすガスでありながらその炎に手を近づけても熱くないという「ブラウンガス」の話やアトランティスの話など、関心がある話もあります。

しかし、本筋の話がかすんでは本末転倒だと思うのです。この手の話が好きな人の中には本書を機にいる人もいるかもしれません。でも、個人的にはあまり好みの作品ではありませんでした。

[投稿日]2020年07月28日  [最終更新日]2025年12月6日

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