金子 成人

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ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』とは

 

『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』は、ごんげん長屋に住むお勝というアラフォー女性を主人公とする人情時代小説シリーズです。

誰にも言えない過去をもつものの、男勝りで誰からも頼られる人柄のお勝を巡る物語はかなり面白く読んだ作品でした。

 

んげん長屋つれづれ帖シリーズ』の作品

 

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ(2024年10月06日現在)

  1. かみなりお勝
  2. ゆく年に
  3. 望郷の譜
  1. 迎え提灯
  2. 池畔の子
  3. 菩薩の顔
  1. ゆめのはなし
  2. 初春の客

 

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』について

 

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の主人公は、根津権現門前町の根津権現社の近くにある「岩木屋」という質屋の番頭をしているお勝という女性です。

このお勝の実家は馬喰町で「玉木屋」という旅館をやっていましたが、二十年前に近所から出た火事のために二親は逃げ遅れ、助けに飛び込んだ三つ違いの兄の太吉もまたともに焼け死んでしまいました。

そのときお勝は奉公先の旗本家にいたため無事でしたが、以来、縁者とも疎遠になり、三十八歳になる現在(第一巻)まで一人でいます。

 

お勝の住まいは、同じ根津権現門前町の南端にある、路地を挟んで北側に九尺三間、南側に九尺二間という間取りで並んだ二棟の六軒長屋で、正式名称は「惣右衛門店」、通称を「ごんげん長屋」といいます。

お勝はその「ごんげん長屋」の北側の棟の真ん中あたりに、十二歳のお琴、十歳の幸助、七歳のお妙という三人の子と共に住んでいます。

このお勝について作者の金子成人は第一巻の始めで、お勝の兄の太吉を慕っていた銀平というお勝の三つ年下の目明しに、お勝は「餓鬼の時分から小太刀をものにして、近所の年上の悪餓鬼からも恐れられてた」と言わせています。

また、今のお勝は根津の方では「かみなりお勝」と呼ばれているそうだ、とも言わせているのです。

それだけお勝自身が鉄火肌であり、親分肌でもあるといえそうです。

 

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の登場人物としては、まず「ごんげん長屋」の面々は、各巻の最初に長屋の見取り図があり、住人の名前も書いてあります。

その中で主だった人物としては、大家の伝兵衛、それに手習の師匠をしていますが金がないために厠の隣の賃料が安い部屋に住む沢木栄五郎がいます。

その他に挙げるべき人物としては、善光寺町にある料理屋「喜多村」があり、その隠居で「ごんげん長屋」の家主でもある惣右衛門がいます。

そして、お勝の過去にかかわる旗本建部左京亮家の用人の崎山喜左衛門や、香取神道流の近藤道場師範の妻で幼馴染の沙月などがいます。

もちろんその他にもいますが、各巻の中で語られていくことになります。

 

本シリーズでお勝が番頭として奉公する「岩木屋」は、質流れになった質草を損料を取って貸し出す「損料貸し」も営む「損料屋」でもありました。

主人は吉之助といい、慶三弥太郎という手伝い、それに初老の蔵番の茂平と修繕担当の要助らがいます。

これらの面々や、「岩木屋」へやってくるお客らの巻き起こす問題ごとにどうしても首を突っ込み、世話を焼くことになるのが主人公のお勝なのです。

 

本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の作者金子成人は高名な脚本家でもあり、人気シリーズの『付添い屋・六平太シリーズ』も書かれています。

ということは、痛快小説のみならず人間ドラマもお手の物でしょうが、あらためて書かれた人情話はいかがなものかと思っていたところ、さすがに読ませる作品でした。

 

ところで、本シリーズは根津権現門前町を舞台としていますが、根津権現町といえば、先般西條奈加が第164回直木賞を受賞した『心淋し川(うらさびしがわ)』も根津権現付近の千駄木を舞台にした作品でした。

また、明治10年の根津遊郭を舞台に、御家人の次男坊だった定九郎の鬱屈を抱えながら生きている様子を描きだす、第144回直木賞を受賞した木内昇の『漂砂のうたう』という作品もあります。


また、田牧大和の『鯖猫長屋ふしぎ草紙シリーズ』も根津権現町の南隣の根津宮永町を舞台にした作品でした。

 

他にも根津という町を舞台にした作品はかなりの数がありそうです。この土地自体に人情話が生まれやすい土壌があるのでしょう。

ともあれ、金子成人という作者の、なかなかに面白そうな新シリーズが始まりました。

ゆっくりと読み続けたいシリーズになると思われます。

追記:

本シリーズも第六巻を読み終えてみると、この作者の作風は、いわゆる痛快時代小説と呼ばれる、無敵の主人公がその剣の腕などを駆使して悪漢を退治し爽快感を得る、というものとは異なるようです。

主人公のお勝こそ人には明かせない過去を持ち、それなりに悩むこともあるようですが、そのことはシリーズの根底に通して流れているだけで、大きな事件というわけでもありません。

本シリーズでは格別に大きな事件が起きることもなく、江戸の市井に暮らす人々の日常がただ淡々と描き出されています。

痛快時代小説的な物語を探している人には向かないでしょうが、格別に文学作品を求めるでもなく普通に通俗的な優しさで事足りる人にはもってこいのシリーズだと思います。

[投稿日]2021年06月23日  [最終更新日]2024年10月6日

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