『ごんげん長屋つれづれ帖【六】-菩薩の顔』とは
本書『ごんげん長屋つれづれ帖【六】-菩薩の顔』は『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の第六弾で、2023年3月に276頁の文庫本書き下ろしで刊行された、連作の短編小説集です。
シリーズ六冊目ともなると読み手の目も厳しくなったのか、その物語展開に、若干ですが面白味を感じなくなってきました。
『ごんげん長屋つれづれ帖【六】-菩薩の顔』の簡単なあらすじ
お勝たちの隣に住まう足袋屋『弥勒屋』の番頭治兵衛。二十六夜待ちで月光の中に菩薩様のお姿を見たと言ってご機嫌だったはずのこの男が、ここ数日浮かぬ顔をしているという。『弥勒屋』の主の徳右衛門から話を聞いたお勝は仕事帰りに店の前を通りかかるが、そこで船頭姿の若者と揉めている治兵衛の姿を目にしてー。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第六弾!(「BOOK」データベースより)
第一話 貸家あり
お勝の住む「ごんげん長屋」の空き家に三、四日寝泊まりすると挨拶に来た米助という男が、その夜長屋の決まりや近隣の様子などを聞く集まりをするといってきた。そこに八卦見のお鹿が、あの米助は以前はキンジと呼ばれていたという話をするのだった。
第二話 鶴太郎災難
七月十六日の盆の送り火を済ませた長屋に、十八五文の薬売りの鶴太郎を訪ねて神田の目明しの丈八親分と南町奉行所の同心の佐藤利兵衛がやってきた。鶴太郎が売った薬で死人が出たというのだ。死んだのは神田須田町二丁目の乾物屋「栄屋」の主の丹治だという。
第三話 身代わり
七月下旬のある日お勝は医者の白岩導円から、導円の屋敷の女中のお玉が身籠ったという相談を受けた。相手は備中国から江戸に来て導円の屋敷に寄宿している祐筆の中村権十郎だという。問題は、中村には国許に妻女と二人の子がいるということだった。
第四話 菩薩の顔
ある日、足袋屋「弥勒屋」の主の徳右衛門が、この頃番頭の治兵衛の様子がおかしくはないか、と<岩木屋>のお勝を訪ねてきた。お勝は、治兵衛が自分が二十六夜待ちの夜に自分が見た菩薩は「常光寺」で見た阿弥陀如来像の脇に立つ勢至菩薩像に間違いない、と言ってきたことを思い出していた。
『ごんげん長屋つれづれ帖【六】-菩薩の顔』の感想
本書『ごんげん長屋つれづれ帖【六】-菩薩の顔』は、これまでと変わらない四編の連作の短編小説からなる人情小説集です。
本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の基本的な流れである主人公のお勝のおせっかいぶりもいつも通りで、さまざまな事柄に首を突っ込っ込まずにはおれないお勝の姿が描かれています。
前巻で書いた本シリーズの何となくの物足りなさ、も残念ながら本書でも何らの変更もありません。
これまでと変らずに、今一つ心に迫るものがないままに終わってしまった作品でした。
「第一話 貸家あり」では、本書の主な舞台となるごんげん長屋の一軒だけ空いている貸家についての話です。
この話については、あまり書くこともないほどでした。七夕や七月十日の四万六千日などの季節の行事についての記述はあるものの、出来事自体は特に語るべきものはありません。
貸し家を借りに来た人物についての話ですが、その顛末があまりに都合がよすぎ、何とも言いようもない話としか言えません。
「第二話 鶴太郎災難」は、ごんげん長屋の住人である十八五文の薬売りの鶴太郎に関する話です。
神田須田町二丁目の乾物屋「栄屋」の主の丹治が薬物により亡くなったが、その薬物というのが鶴太郎の売った薬らしいというのでした。
この話も事件自体は特別なことは無く、その後の展開も取り立てて言うべきこともありません。
「第三話 身代わり」は、お勝が日頃世話になっている医者の白岩導円に絡んだ話です。
導円の屋敷の女中のお玉が身籠ったというのですが、その相手とされた侍の振る舞いが何とも気にかかる振舞でした。
読む人にとっていろいろな感想が出てくる話ではなかったでしょうか。
「第四話 菩薩の顔」は、ごんげん長屋の住人である治兵衛についての話です。
自分が夢で見たのは「常光寺」にある阿弥陀如来像の脇に立つ勢至菩薩像に間違いないという治兵衛の、来歴が明らかにされます。
この話は、人情物語としてそれなりに読みがいがある物語でした。