金子 成人

ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ

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ごんげん長屋つれづれ帖【五】-池畔の子』とは

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【五】-池畔の子』は『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の第五弾で、2022年9月に280頁で文庫本書き下ろしで出版された連作の短編時代小説集です。

シリーズ五冊目ともなると読み手の目も厳しくなったのか、その物語展開に、若干ですが面白味を感じなくなってきました。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【五】-池畔の子』の簡単なあらすじ

 

お勝の息子の幸助が、顔に傷をこしらえて帰ってきた。なんでも、不忍池の畔に暮らす“池の子”と呼ばれる孤児たちと喧嘩になったのだという。青物売りのお六が川に捧げた胡瓜が喧嘩のもとだと知ったお勝は、お六とともに孤児たちのもとに向かう。これを機に、お勝とお六は“池の子”たちとの絆を深めていくのだがー。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第五弾!(「BOOK」データベースより)

 

第一話 片恋
お勝は弥太郎と共に損料貸しの品物の引き取りを終えて帰る途中、ある武家の奥方らしき人物と出会った。その息子の小四郎を紹介する弥太郎は、弾けそうな笑みを浮かべているが、奥方は、小四郎が覇気もなくなかなか成績も上がらいことに頭を悩ませていた。

第二話 ひとごろし
ある朝、根津宮永町の妓楼でひとごろしがあったと大騒ぎになっているなか、近藤道場下働きの鶴治が沙月がお勝のことを心配していると言ってきた。翌日、沙月のもとへ行ったお勝は銀平から、鶴治の剣術の稽古は親の敵討ちのためだということを聞いた。

第三話 紋ちらし
お勝は、庄次から「安囲い」の喜代という名の女に子ができたものの、誰の子か分からずに困っている話を聞いた。男たちの話し合いの場について行くことになったお勝だったが、女の長屋の地主である日本橋の漬物問屋「大前屋」の内儀磯路と話すことになった。

第四話 池畔の子
ある日、幸助が不忍池の畔に暮らしている子供たちと喧嘩をしたと怪我をして帰ってきた。長屋のお六が子供たちが水で溺れないように河童にやっている残り物の胡瓜を横取りしていると思い注意をしたところ喧嘩になったというのだった。

 

ごんげん長屋つれづれ帖【五】-池畔の子』の感想

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【五】池畔の子』も、全四編からなる連作の短編小説集となっています。

市井の長屋に暮らす普通の人達の日常を描き出すこのシリーズも五巻目となりました。

相変わらずにおせっかいなお勝の日常が語られ、江戸の庶民の暮らしが目の前に展開される興味深いシリーズとなっています。

シリーズ物として落ち着きを見せてきたこの『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』ですが、一方では何となく物足りなさも感じてくるようになりました。

 

冒頭から否定的なことを述べることになり申し訳ないのですが、これまでもなんとなくは思ってきたことではありますが、このシリーズのもつ雰囲気が今一つ心に迫る場面が少ないように思えます。

おなじ人情物語ではあるのですが、例えば宇江佐真理の『髪結い伊三次捕物余話シリーズ』や、西條奈加の『心淋し川』などのように心の奥深くに染み入るような情感、余韻を感じないのです。

 

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【五】池畔の子』のような出来事中心の物語展開は、主人公お勝という人物の男勝りという人物設定のためかもしれませんが、だというよりもこの作者金子成人の文章のタッチそのものがそうだと言う方が正解だと思われます。

というのも、この作者の『付添い屋・六平太シリーズ』などを見ても、人情話ではあるもののやはり心象を深く描くというよりは種々の出来事に振り回されている人々の姿を描くほうに重点があるように思えるのです。

 

 

本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』においても、お勝の身のまわりの人物に関連して巻き起こる出来事について、黙って見過ごすことのできないお勝が、いわばおせっかいとして乗り出し、問題を収めていくという構造が殆どです。

そこではお勝の行動を追いかけ、さらにおせっかいを受ける側の事情を縷々説明してあります。

しかし、そんな中でのお勝やその相手方の心象はあまり詳しくは描いてありません。

 

本書『ごんげん長屋つれづれ帖【五】池畔の子』の第一話「片恋」にしても、お勝が番頭を務める「岩木屋」で働く弥太郎の斉木芳乃という武家の奥方らしき人物との恋心と、その奥方のその息子小四郎にかける期待などの話であり、その設定自体は特別なものではありません。

そこにお勝が絡むことで問題の親子の行く末が、少しなりともいい方向へ向かいのではないか、という若干の明かりが見えるだけですが、ただ、そこには分かれの悲しみもあったのです。

まさに通俗的な人情話そのものの物語です。

しかし、個人的には、物語の流れが俯瞰的な描写のままに流れている、と感じ、もう少しの感情のゆらぎがあれば、と思ったのです。

 

第二話「第二話 ひとごろし」も、近藤道場の下働きの鶴治の話ですが、このシリーズの登場人物のある一人の背景に目を向け、そこに焦点を当てた物語です。

確かに心打たれる話ではありますが、それだけ、という印象も否めません。

妓楼で客が女郎の腹を刺して逃げたという騒ぎを背景にしてありますが、鶴治の話との関係は今一つ分かりませんでした。

 

第三話第三話 紋ちらしは、長屋の住人の庄次が為していた「安囲い」の女が身籠ったための、その後始末の話です。

この「安囲い」という言葉は『付添い屋・六平太シリーズ』の第三話でも「安囲いの女」というタイトルの話があります。

また、他にも数人がお金を出し合って一人の女を囲うという話があったように覚えていますが、そのタイトルをはっきりとは覚えていません。

数人の男を相手にする妾ですから、この物語のような出来事も当然あったことでしょうが、この話は若干都合がよさ過ぎるようにも感じます。

 

第四話「第四話 池畔の子」は、不忍池の畔に住んでいる子供たちの話で、彼らの行く末を周りの大人たちが見守るという話です。

お六が子供達のことを思い流した胡瓜をきっかけに浮浪児との交流が始まるというのは心あたたまる話です。

江戸時代に、孤児たちの将来のことを近所の皆で考えるということは聞いたことがありますが、役人たちも加わっていることも当然あったでしょう。

ご都合主義的に思えないこともありませんが、ほのぼのとした話ではあります。

 

ここまで、このシリーズにもっと情感が欲しいという観点からの批判めいた文章を綴ってきました。

しかしながら、これまでもこのシリーズについては若干ながらもそうした印象は持っていたはずで、そうニュアンスのことも書いてはきていました。

とはいえ、それなりの魅力があればこそこれまで読んできたものですし、これからも読み続けると思います。

[投稿日]2022年12月10日  [最終更新日]2022年12月10日
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