巳之吉 南新堀の廻船問屋『渡海屋』の若旦那
おるい 巳之吉の四つ下の妹
儀右衛門 巳之吉の祖父
鎌次郎 巳之吉の入り婿の父親
多代 巳之吉の母親
岩松 霊岸島銀町にある鍛冶屋の倅 火消し弐番組「千」組の平人足
丑寅 東湊町の船宿の長男 八丁堀亀島町の目明し・稲次郎親分の下っ引き
為三郎 北新堀の油屋の三男
染弥・小勝 巳之吉らの馴染みの辰巳芸者
秀蝶・千代 巳之吉の女たち 踊りの師匠と亭主持ちの女
主人公は南新堀の廻船問屋『渡海屋』の若旦那の巳之吉という男です。
水運・海運の要地である霊岸島にあって、主に西国、上方から江戸への海上物流を担っていたのが巳之吉の実家である「渡海屋」だった。
その「渡海屋」の跡取りである筈の巳之吉は、家業にはめもくれず、放蕩三昧の日々を送っていた。
しかし、巳之吉が勝手に婿取りするものと思っていた妹のおるいは嫁に行ってしまい、つまりは巳之吉が家業を継がねばならなくなってしまう。
そこで、巳之吉の祖父の義右衛門は、世間の狭い者に旅が一番だとして、巳之吉を跡取りとして鍛え直すために京への一人旅へと送り出すのだった。
世間知らずの若旦那の一人旅という設定が、まず『東海道中膝栗毛』の一人旅版のようなコメディータッチの作品を思い起こさせますが、まさにその通りのユーモアに満ちた気楽な物語になっています。
こうした、主人公の旅の様子をそのままに小説にしている作品としては、鈴木英治の『若殿八方破れシリーズ』や佐伯泰英の『夏目影二郎始末旅シリーズ』などがあります。
後者の『夏目影二郎始末旅シリーズ』は幕府の密命を帯びて諸国の悪人を懲らしめるという活劇小説であり、本書のタッチとは少々異なります。
しかし、前者は信州真田家跡取りである主人公が、本来許されない筈の自分の家来のための仇打ちに出るというもので、まさに本書『若旦那道中双六シリーズ』のようなコミカルなタッチの作品です。
本シリーズは全部で五巻で完結しています。この作者の作品としては他に『付添い屋・六平太シリーズ』を読んだだけですが、他の作品も読んでみたいものです。
ただ、私がお世話になっている図書館に他の作品がありません。単発の作品は二~三冊あるようですが、やはりシリーズ物を期待したいと思います。