『ごんげん長屋つれづれ帖【四】迎え提灯』とは
本書『迎え提灯』は『ごんげん長屋シリーズ』の第四弾で、2022年3月に275頁で文庫本で書き下ろされた連作の短編時代小説集です。
シリーズ第四作目の作品として、このシリーズの世界観にも慣れ、それなりの面白さを持った人情小説集としてその位置を確立している印象でした。
『ごんげん長屋つれづれ帖【四】迎え提灯』の簡単なあらすじ
およしを失った悲しみを乗り越え、日常を取り戻しつつある『ごんげん長屋』。新たな住人も長屋に馴染んで、より絆も深まる中、数年前に捨てた乳飲み子の行方を捜す旗本家の女中が現れる。お勝の下の娘お妙が捨てられていたときの状況と何かと符合する話を聞いたお勝だが、女中はお妙がその乳飲み子だと決めつけてー。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る大人気シリーズ第四弾!(「BOOK」データベースより)
第一話 貧乏神
文政二年(1819)三月のある日、岩木屋で女房を質に入れられるか聞いてきた大工の男が、その日の夕刻に今度は仕事道具一式を質入れしたいと言ってきた。それでは稼げなくなると言い聞かせると、再び女房と相談すると言って帰ってしまうのだった。
第二話 竹町河岸通り
ある日、お勝は南町奉行所同心の佐藤利兵衛らから、五日ほど前に殺されたお春という女のことで、ごんげん長屋の貸本屋の与之吉の当日の所在がはっきりしないので調べてほしいと頼まれた。しかし、与之吉は意外な人物と共にいた。
第三話 法螺吹き男
ごんげん長屋の藤七が一緒に飲んで意気投合した重兵衛という男を泊めた。しかし、その重兵衛はごんげん長屋の楽しさが忘れられずに再び顔を見せてきたのだ。ところが、ここ数日、三人連れの侍が探している男が重兵衛に似ているというのだった。
第四話 迎え提灯
夏になったある日、目明しの作造が六年前に捨てた赤子を探している女がいると言ってきた。その後、捨子探しをしているお牧という女から相談を受けたと作造から呼び出しがかかり、どうもお勝のもとにいるお妙の話と似ていると言ってきた。
『ごんげん長屋つれづれ帖【四】迎え提灯』の感想
本書『ごんげん長屋つれづれ帖【四】迎え提灯』も、これまで本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』と同じ全四編からなる連作の短編小説集です。
シリーズの四巻目ともなると、本シリーズと同じ金子成人の『付添い屋・六平太シリーズ』と同様に安定した物語世界が構築されたシリーズ作品になっています。
そして本書では、主人公のお勝の過去や子供たちに関係するだろう細かな出来事は別として、シリーズ全体にかかわるような大きな出来事はなく、安定した人情話の物語集となっています。
「第一話 貧乏神」では、お勝が番頭を務める質屋の「岩木屋」に来た、女房を質に入れることができるかと聞いてきたお客の話です。
断ると、今度は仕事が大工であるにもかかわらず、大工道具一式を質に入れたいとやってきたのです。
こうなると、世話焼きのお勝としては黙っているわけにはいかず、そのお客の私生活にまで口をはさむことになるのでした。
「第二話 竹町河岸通り」では、お春という囲われ者の女が殺された事件に関連し、ごんげん長屋の与之吉が怪しいという話です。
殺された女の家に出入りしていた者の中で、所在が不明なのがごんげん長屋の与之吉だというのです。
与之吉のその日の所在を確かめて欲しいと頼まれたお勝でしたが、与之吉は意外な人物と共にいたことが判明するのでした。
同時に、殺されたと思われていたお春について、また別な心温まる挿話が準備してありました。
「第三話 法螺吹き男」は、一人暮しの藤七が酔いにまかせて連れてきた重兵衛という男にまつわる人情話です。
近江の鉄砲鍛冶だという重兵衛は、江戸に連れてこられて三年の間の武家屋敷での暮らしの味気なさに耐えかねて屋敷を抜け出し、江戸の町を見て回る途中で藤七に出会ったというのです。
その際のごんげん長屋の住人の温かみに触れ、再びごんげん長屋を訪ねてきたというのでした。
しかし、屋敷の侍は鉄砲鍛冶の振る舞いをそのままにはしておけず、探し回っていたのです。
酒を飲んでは大騒ぎをし、問題を抱えた人間には共に解決の道を探そうとする、貧乏だけれども人情味豊かなごんげん長屋の暮らしに触れ、人間味豊かな生活を思い出した重兵衛だったのです。
「第四話 迎え提灯」は、本書の主人公のお勝が育てている子供たちの一人であるお妙にまつわる話です。
お勝は本『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の舞台となる「ごんげん長屋」で、十二歳のお琴、十歳の幸助、七歳のお妙という三人の子と共に住んでいます。
この子たちはお勝がお腹を痛めた子ではなく、捨子だった子たちを自分で育ているのであり、そのことは子供たちも知っています。
そこに、六年前に子供を捨てた女がその子を探しており、その子の年まわりからしてお勝のもとにいるお妙ではないかという話が持ち上がるのでした。
お勝と子供たちの心温まるエピソードの一つであり、お勝の子供たちに対する思いが垣間見える話でした。
本書『ごんげん長屋つれづれ帖【四】迎え提灯』は、『ごんげん長屋つれづれ帖シリーズ』の一冊として、まさに市井の暮らしを描き出した通俗的な時代小説の典型ともいういべき長屋小説です。
舞台となる「ごんげん長屋」と、そこに暮らす庶民。そして、長屋の中心人物として、皆から頼りにされているお勝というお人よしの女性。
人情小説としての要素を十分に持った、心温まる小説であり、今後の展開を大いに期待させてくれるシリーズだと言えるでしょう。
続編を楽しみに待つシリーズの一つだと言えます。