池井戸 潤

半沢直樹シリーズ

イラスト1

本書『銀翼のイカロス』は、『半沢直樹シリーズ』の第四弾の長編の痛快経済小説です。

そして、大ヒットテレビドラマ2020年版「半沢直樹」の「第二部」の原作となった物語でもあります。

 

出向先から銀行に復帰した半沢直樹は、破綻寸前の巨大航空会社を担当することに。ところが政府主導の再建機関がつきつけてきたのは、何と500億円もの借金の棒引き!?とても飲めない無茶な話だが、なぜか銀行上層部も敵に回る。銀行内部の大きな闇に直面した半沢の運命やいかに?無敵の痛快エンタメ第4作。(「BOOK」データベースより)

 

今回の作品では航空会社の再建に手を染める半沢直樹が描かれます。

と言っても、実際の問題は、政権交代した新政府の新しい国土交通大臣が立ち上げたタスクフォースが要求する債権放棄の要求をいかに処理するかという問題です。

 

本作品で描かれる新しく政権に就いた政党のモデルは民主党であり、現実に行われた前原誠司国土交通大臣のタスクフォースを前提に、民主党の蓮舫議員を思わせる白井亜希子国土交通大臣という架空のキャラクターが登場します。

そして再建の対象となる航空会社のモデルは日本航空でしょう。

しかし、民主党政権の是非については人それぞれにあるところでしょうが、それはここでの問題ではありません。

 

「タスクフォース」とは、「緊急性の高い、特定の課題に取り組むために設置される特別チームのこと。」だとありました(コトバンク : 参照 )。

このタスクフォースのとりまとめをしているのが及原正太弁護士であり、この及原弁護士が今回の敵役となります。それに加え東京中央銀行内部での反半沢派の代表として紀本平八常務が立ちふさがります。

 

これらの登場人物が、民間航空会社の再建騒動を題材に、いつもながらの私的な怨念や権力欲、金銭欲などを抱えつつ、自身が有する権力をもって企業の将来を左右する振る舞いに出ます。

具体的には新しいタスクフォースが銀行団に対し提示した債権放棄要求であり、半沢にとっては東京中央銀行に対する五百億円の債権放棄要請でした。

この理不尽な要求に対し、半沢は、半沢の良き理解者である営業部長の内藤寛や検査部の富岡、半沢の尊敬する中野渡頭取などの後ろ盾を得ながら、種々の方策をもって対抗するのです。

 

半沢は「オレは、基本は性善説だ。だが、悪意のある奴は徹底的にぶっ潰す。」という人間であり、この言葉の延長上に「倍返しだ!」の名台詞があります。

そして、結局はこの言葉の通りに相手をぶっ潰していく半沢の行動にカタルシスを感じることになります。

勿論、そうした痛快さは半沢の言葉行動だけではなく、信念をもって行動する半沢の仲間らの言動などにも表れています。

そうした場面の中の一つとして、本書のクライマックスで中野渡頭取が述べる頭取としての経営者の責任に言及する言葉などがあります。こうした言葉が読み手に迫り、心に残るのでしょう。

 

蛇足ですが、民間航空会社の再建に口を出してきた新国土交通大臣白井亜希子のパフォーマンスについて、政権が変わったからといって、それまでの政権が築き上げてきた再建計画を新大臣の一言で全くの白紙にすることができることに驚きでした。

大臣の権力というものは、そこまで大きいものなのですね。

 

2020年7月からは前巻『ロスジェネの逆襲』と本書『銀翼のイカロス』とを原作として、前回同様にTBS日曜劇場でテレビドラマ『半沢直樹』が放映されました。

演技派の役者さんらが演じたドラマは当然のことながら非常に面白いものでした。

歌舞伎の向こうを張ったような大げさともいえる演技が、それに見合う台詞と共にドラマの雰囲気と見事にマッチして楽しみなドラマとなっていました。

原作ではいない筈の大和田常務の大活躍が非常に楽しみであり、また片岡愛之助氏の黒崎駿一の活躍もまた同様でした。

ドラマとしての『半沢直樹』はもうつくられないということは残念ですが、小説版は続編が出るということなので楽しみにしたいと思います。

[投稿日]2019年05月10日  [最終更新日]2020年11月8日

おすすめの小説

読後感が心地よい小説

本書『銀翼のイカロス』の作風とは全く異なりますが、どの作品も、読後には爽やかで心地よい余韻をもたらしてくれることでしょう。
西の魔女が死んだ ( 梨木 香歩 )
小学校を卒業したばかりの少女まいの、その祖母のもとでの夏のひと月ほどの体験を描いた、ファンタジーでもなく、童話でもない中編小説です
博士の愛した数式 ( 小川 洋子 )
80分しか記憶が持たない数学者と家政婦とその家政婦の息子が織りなす物語。短期間しか記憶が持たないために種々の不都合、不便さが付きまとう中、三人は心を通わせていくのです。
神様のカルテシリーズ ( 夏川 草介 )
本屋大賞で、一作目が2位、二作目が8位と、シリーズ自体が高く評価されている作品です。「命」という重いテーマを扱いながら、人の思いやり、優しさを丁寧に描いていて、読後感がとても爽やかです。
キネマの神様 ( 原田マハ )
原田マハ著の『キネマの神様』は、映画に対する愛情がいっぱいの、ファンタジックな長編小説です。「映友」に映画に関する雑文を書いて歩は、父親が書いた映画に関する文章を映友のサイトに載せて見ました。すると、とある人物との問答が大反響を呼び、大人気となったのでした。
しゃべれどもしゃべれども ( 佐藤 多佳子 )
しゃべることが苦手な様々の事情を持つ登場人物が、二つ目の落語家である主人公のもとへ話し方を習いに来る物語。恋物語があったり、心温まる物語です。

関連リンク

半沢直樹の“新たな敵”を池井戸潤が語る ―シリーズ最新作『銀翼のイカロス』発売間近!
2014年、春から夏にかけてのテレビ界は、池井戸潤が席巻した、といっても過言ではないだろう。6月、好評のうちに完結した連続ドラマ『花咲舞が黙ってない』と『ルーズヴェルト・ゲーム』。2作同時の映像化は、昨年の『半沢直樹』『七つの会議』に続いてのことだった。
半沢直樹シリーズ第4巻がついに文庫化! 国家権力相手に半沢は「倍返し」できるのか!?
2013年に一大ブームとなった「半沢直樹」。銀行の内外に現れる敵と戦う半沢の熱い姿と、「やられたら、やり返す。倍返しだ」の名台詞は、ドラマ版で多くの人々の心を震わせただけでなく、原作者である池井戸潤氏の小説も大きな人気を博した。
池井戸潤著 半沢直樹シリーズ『銀翼のイカロス』あらすじ - ブック
業績の悪化が進む民間航空会社・帝国航空の経営再建を、頭取から直々に任された東京中央銀行の半沢直樹。国土交通大臣が立ち上げた帝国航空再生タスクフォースに500億円もの債権放棄を迫られるが、半沢は拒否する。政治家との対立、圧力、派閥争い。果たして半沢に勝ち目はあるのか……。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です