通称“座敷牢”。関東シティ銀行・人事部付、黒部一石の現在の職場だ。五百億円もの巨額融資が焦げ付き、黒部はその責任を一身に負わされた格好で、エリートコースから外された。やがて黒部は、自分を罠に嵌めた一派の存在と、その陰謀に気付く。嘆いていても始まらない。身内の不正を暴くこと―それしか復権への道はない。メガバンクの巨悪にひとり立ち向かう、孤独な復讐劇が始まった。 (「BOOK」データベースより)
主人公である関東シティ銀行本店営業第三部の次長である黒部一石は、東京デジタル通信の常務取締役阿木武光からの五百億の融資について、営業第三部部長の佐伯に押し切られる形で支援の稟議書を作成した。しかし、その融資は焦げ付き、黒部の責任という形で決着することになる。
だが、その融資は取締役企画部長の立花鉄夫らの陰謀によるものだった。通称「座敷牢」で反省文を書く日々だった黒部は人事部長の英悦夫からの呼び出しを受け、反撃のために立ち上がるのだった。
本書が描かれたのは2005年です。「倍返しだ」で有名なテレビドラマ「半沢直樹」の原作である『オレたちバブル入行組』と同じ頃に書かれた小説で、同じくテレビドラマの「花咲舞が黙ってない」の原作ともなっている作品です。
内容は、舞台が銀行で悪辣な上司に陥れられた主人公の反撃を描いているという点では、ほとんど『オレたちバブル入行組』やその続編の『オレたち花のバブル組』と同じ骨組です。
ただ、本書の場合はタイトルが示す通りの「仕置人」の物語であり、銀行を舞台にした他の作品よりもよりストレートに「社内の不正」を暴き出していきます。つまり、主人公の黒木は臨店名目で支店を訪れ、実際にその支店の闇を暴き出します。
形式は各支店のでエピソードが連なり、まるで短編小説集のようでもありますが、すべては黒木の復讐劇の中に位置付けられるのです。
それは自分を陥れた東京デジタル通信社長の阿木、銀行内の立花常務といった黒幕の不正を暴き出すことに繋がるのでした。
それと共に、黒木自身も物理的な暴力を受け、最終的には死者さえ出ます。池井戸潤の全部の小説を読んだわけではないのではっきりとは言えませんが、こうした物理的な暴力が前面に出てくる話の流れは、池井戸潤の小説の中では珍しい部類に入るのではないでしょうか。
とはいえ、痛快経済小説として面白い物語です。『下町ロケット』『陸王』といった近時の企業小説からすれば物語の深みに欠けるというきらいはありますが、それは時間を経た現在の読み手の我儘というべき要求でしょう。