池井戸 潤

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零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった―。感動の青春巨篇。(「BOOK」データベースより)

 

山崎瑛と階堂彬という同年代の二人のアキラを主人公として、押し寄せる様々な困難な状況を乗り越えていくという長編の痛快経済小説です。

 

本書は文庫本で700頁を超える作品で、二人の主人公の子供の頃からの成長を描いているまさに池井戸潤の描く痛快小説です。

ただ、近時の池井戸潤の作品と比較して何点かの疑問がありました。

まず第一点は、本書のタイトルの二人のあきら、即ち東海郵船の御曹司の階堂彬と、零細工場の息子である山崎瑛という二人を主人公とした意義があまり感じられなかったことです。

貧富の差を設けた二人を登場させた意味もあまり感じませんでしたし、別に階堂彬だけでも十分に成立する物語だとの印象でした。

たしかに、山崎瑛という存在が銀行員という立場の役割を担った存在としてあります。でも、そこは山崎瑛でなくても良く、階堂彬がその知恵をもって担当銀行員に指示する展開でも行けたのではないでしょうか。

ただ、そうすれば今の作品ほどの面白さは無くなったかもしれませんが。

 

次いで、本書の前半、二人のあきらの子供のころを描いている間、即ち「第四章 進路」の途中までは物語のテンポが冗長に感じました。

本書は2006年から2009年にかけて「問題小説」に連載されていたものに大幅に加筆修正し、2017年に700頁を超える分量の文庫版として出版されたものだそうです。

そうした事実を併せ考えると、長期の連載だからこそじっくりと二人のあきらの子供時代を描いたのだ、と思われますが、それでももう少し簡潔に書けたのではと思います。

ただ、「第四章」の終盤での山崎瑛の父親の会社である西野電業の専務と担当銀行の支店長との会話はまさに池井戸潤であり、これ以降は今の池井戸潤に通じるテンポの良さを取り戻しているように思います。

 

そしてもう一点。二人の敵役として立ちふさがる階堂彬の叔父二人の存在が、ステレオタイプな存在と感じられ、強烈な個性を持った魅力的な敵役とはとても言えない存在でした。

最後に、全体として物語が平板にも感じました。確かに物語の勢いはあるのですが、少々一本調子だったのです。

このように、今の池井戸潤の小説と比べると若干物足りないのです。しかし、書かれた時期を考えると仕方のないことかもしれません。

 

書評家である村上貴史氏による本書の「解説」にも書いてあったように、本書は『シャイロックの子供たち』と『下町ロケット』との間に書かれたことになり、「新たな書き方に目覚めた池井戸潤が」書いた作品ということになります。

 

 

だからこそ、本書の二人が社会人になってからの流れは『半沢直樹シリーズ』にも通じる勢いを持っていると思われるのです。

 

 

池井戸潤の信念なのか、登場人物に「大抵の場合、どこかに解決策はある」と言わせたり、物事の見方の新たな視点などを感じさせる表現もあり、次第に引き込まれていきました。

池井戸潤が考える銀行員や企業経営に対する理想像が明確に主張され、その主張がまかり通っていく物語の流れが明確になっていて、痛快経済小説としての面白さを十分に持っていると思います。

今の作品と比べいろいろ不満はあったものの、冒頭に述べたように、結局は池井戸潤の描く痛快小説の醍醐味を満喫できる作品でした。

 

ちなみに、私は見ていないのですが、本書は向井理と斎藤工の二人を主演としてWOWOWでドラマ化されました。

 

[投稿日]2019年09月03日  [最終更新日]2019年9月3日
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