大手ライバル企業に攻勢をかけられ、業績不振にあえぐ青島製作所。リストラが始まり、歴史ある野球部の存続を疑問視する声が上がる。かつての名門チームも、今やエース不在で崩壊寸前。廃部にすればコストは浮くが―社長が、選手が、監督が、技術者が、それぞれの人生とプライドをかけて挑む奇跡の大逆転とは。 (「BOOK」データベースより)
『下町ロケット』や『陸王』といった作品で、小説は勿論、それらの小説を原作としたテレビドラマでも大きな話題になった池井戸潤の、社会人野球という斬新な視点も加わった、痛快経済小説です。
つまり、普通の作品で描かれがちである、ライバル企業との熾烈な経済的な駆け引きや、会社内部での権力争いといった出来事の他に、社会人野球という、会社経営とは直接には関わらない、しかし経営戦略上は価値のある会社のシンボル的存在についての闘いをも加味することで、乗り越えるべき壁の多様さを設定してあるのです。
社会人野球チームを有する中堅電子部品メーカーの青島製作所は、社会的不況のあおりを受けて業績不振に陥り、かつては名門と言われた野球チームも廃止すべきだとの声が上がるほどだった。しかし、当の野球部では内紛が起き、監督自身が有力選手を引き連れてライバル企業の野球部へと移ってしまう事態が起きていた。
そんな青島製作所の危機に付け込むライバル企業の攻勢に対し、リストラなどの対抗策をとる青島製作所だったが、野球部も有力選手を獲得し、青島製作所の再生のシンボルとして復活を期するのだった。
本書でも通常の経済小説としての面白さは、勿論丁寧に押さえてあります。それは、一つには不況下の青島製作所自体の存続そのものに関わる物語であり、もう一つは青島製作所内部での社長派と反社長派というお決まりの派閥の対立の話です。
会社の存立という点に関しては、ライバル企業が陰に陽に仕掛けてくる企業そのものへの圧力があります。それは競合製品の値下げや資金調達の道を断つなどがあり、またそこに関連して野球部のメンバーの引き抜きなどもあるのです。
そして、会社内部の派閥争いという点では、細川社長と笹井専務との対立があります。野球部の存続問題は、こちらの争いには直接には関わりません。笹井専務はもとから野球部解体の強力な推進派でしたが、細川社長も決して野球部存続を容認しているわけでもないのです。
そもそも、現社長である細川充というという人物は、青島会長がコンサルタント会社から連れてきた人物であり、誰しもが青島社長のあとを継ぐと思っていた笹井専務とはその時点で相容れないものがあったようです。
この細川社長が青島製作所の存続の危機に際し、リストラ策を実行しなければならない状況に陥ってしまいます。そうした環境の中で企業野球の意味が問われます。首切りをする前に野球部というお荷物を切り捨てるべきだという話が起きるのは必然です。
そんな中、会社の存続を前提に野球部は野球部としての生き残りを模索するのですが、その姿がまた心を打ちます。。
企業小説でありながら、スポーツ小説の要素をも盛り込む贅沢な構成です。そしてその両方が困難を乗り越えるという痛快小説として成立していて、読み手を飽きさせません。
ただ、それだけに特に野球部に関しては若干ですが物足りない気もしないではありません。もう少し書き込みが欲しいと感じる個所があるのです。また、多視点で書かれている分、少々落ち着かない感じもします。
ですが、そうした不満は取るに足らない不満でもあります。本書『ルーズヴェルト・ゲーム』は、先にも書いたように十分な読み応えがあり、過剰な要求というべきなのでしょう。
ちなみに、本書のタイトル『ルーズヴェルト・ゲーム』とは、点の取り合いがあり、8対7で決着がつく試合が面白いという、第32代アメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルトの言葉に由来するものだそうです( ウィキペディア : 参照 )。