『きんぴか』とは
本書『きんぴか』は『きんぴかシリーズ』として、1992年から1994年にかけて天山出版と飛天出版から計三巻が刊行され、2023年5月に光文社文庫から三巻合計で1040頁の文庫として出版された、長編のピカレスク小説です。
浅田次郎の初期の作品ではありますが、「泣かせ屋」としての特徴は既に備わっていて、非常に楽しく、また面白く読んだ作品です。
『きんぴか』の簡単なあらすじ
敵対する組の親分を殺し、十三年の刑期を終えて出所した、“ピスケン”こと阪口健太。自衛隊の湾岸派兵に反対し単身クーデターを起こし、自殺未遂した“軍曹”こと大河原勲。大物政治家の収賄の罪を被った大蔵官僚出身の元政治家秘書“ヒデさん”こと広橋秀彦。個性的すぎるこの三人が、奇妙な縁でタッグを組み、彼らを陥れた巨悪に挑む!「悪漢小説の金字塔」決定版。(第一巻 「BOOK」データベースより)
“ピスケン”こと阪口健太、“軍曹”こと大河原勲、“ヒデさん”こと元大蔵官僚の広橋秀彦は、銀座の砦で静かな毎日を過ごしていた。と、ピスケンは警察のターゲットになり、軍曹は元部下の失態に遭遇、ヒデさんは健太が散財した“三人の親分”向井の退職金の穴埋めに苦悩する。三人の悪党は降りかかる難題に想像を絶する行動に。著者のデビュー作にして最高のコメディ、第二弾。(第二巻 「BOOK」データベースより)
“ヒデさん”こと元大蔵官僚の広橋秀彦を「あなたは私のライフワークだった」と慕い、大疑獄事件をスクープしたジャーナリストの草壁明夫が殺された。三人の悪党のうち“ピスケン”阪口健太、“軍曹”大河原勲は、持ち前の度胸、体力を使い独自に動き出したが、広橋が選んだ行動とはー。そして、三人についに別れが訪れる。「きんぴか劇場」終演で、感動に包まれる第三巻!(第三巻 「BOOK」データベースより)
きんぴかシリーズ(2025年08月03日現在 完結)
- 三人の悪党
- 血まみれのマリア
- 真夜中の喝采
『きんぴか』について
本書『きんぴか』は、浅田次郎のごく初期のユーモア長編小説ですが、浅田次郎の泣かせ方や、見せ場の盛り上げ方などは既に備わっています。
全体として一本の長編ではあるのですが、各章が短編としても読めるエピソードで構成されている、まさに浅田次郎の物語といえる楽しく読める作品です。
やっとシャバに出てきたヤクザ「ピスケン」、自殺未遂を起こした元自衛隊員の「軍曹」、そして大物政治家の収賄の罪を被った元大蔵キャリア「ヒデさん」の三人は、第一巻の冒頭で、退職間際の刑事「マムシの権佐」と引き合わされることからこの物語は始まります。
この作品も他の作品と同じく、荒唐無稽ではあるけれども、江戸っ子堅気に見られる「粋」や「義」で貫かれた、不器用とも言える「男気」の物語であって、これは即ち浅田次郎の基本であるようです。
第二巻目『血まみれのマリア』では阿部マリアの救急救命センターでの看護師長としての活躍が描かれていますが、このマリアはその後に『プリズンホテル』でも登場し読者の涙を誘います。
つまり本書『きんぴか』は、直接には『プリズンホテル』や『天切り松 闇がたりシリーズ』に連なる作品と言えるでしょう。
男気にあふれる三人の夫々の夫婦や家族の物語は、「粋」や「義」という「男の意地」の物語であって、それは『壬生義士伝』での吉村貫一郎の家族への思いや、『黒書院の六兵衛』の的矢六兵衛の行動にも通じていると言えそうです。
ただ、本書『きんぴか』はごく初期の作品であるがために、脂の乗った現在の作品である上記の『黒書院の六兵衛』程の完成度が無いのは仕方がなく、そのレベルを要求するわけにはいきませんが、あらためて現在の浅田次郎か書いた『きんぴか』の三人の物語を読みたいものです。