柚月 裕子

森口泉シリーズ

イラスト1
Pocket

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは 月下のサクラ (文芸書) [ 柚月裕子 ] へ。


本書『月下のサクラ』は元事務方の女性刑事を主人公にした、新刊書で380頁の長編の警察小説です。

通常の警察小説とは異なる、分析係という部門でその能力を発揮する主人公の姿が魅力的な、期待に違わない作品でした。

 

月下のサクラ』の簡単なあらすじ

 

事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングし、解決へと導く機動分析係。森口泉は機動分析係を志望していたが実技試験に失敗。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、無事配属されることになった。鍛えて習得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう。自分の能力を最大限に発揮し、事件を解決に導くー。泉は早速当て逃げ事件の捜査を始める。そんな折、会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚した。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者による線が濃厚で、やがて殺人事件へと発展してしまう…。気鋭の作家が贈るノンストップ警察ミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

かつては広報課に勤務していた森口泉は念願通りに県警捜査二課に所属する立場になっていた。

そこでの泉は、捜査の最前線で活躍できると県警の捜査支援分析センターの人員募集に応募して機動分析係を希望するものの、最終テストで失敗してしまう。

しかし、何故か分析センターの機動分析係長の黒瀬仁人警部に拾われ、分析係で勤務することになる。

ところが、着任早々会計課の金庫から一億円近くの金が紛失し、内部犯行が疑われる事案が発生するのだった。

 

月下のサクラ』の感想

 

本書『月下のサクラ』での主人公は前巻『朽ちないサクラ』と同じく森口泉という女性です。

前巻では県警広報課という事務方に勤務していたのですが、一念発起して県警を再受験して見事合格し、努力の末に捜査二課に配属され念願の刑事となっています。

さらにそこから捜査支援分析センターの人員募集に応募し、機動分析係への配属されたということになっています。

つまりは、前巻『朽ちないサクラ』での友人の死、そしてその隠された真実を知り、事務方ではなく自分で捜査の第一線に立ちたいとの意思を持ち、刑事になっているのです。

 

 

本書は全く別の人物を主人公に据えて書くことも可能あったと思えるのですが、ただ、物語の核心で『朽ちないサクラ』と共通するものがあるためにシリーズ化としたものと思われます。

こうしたことを読みながら考えていたら、読了後に読んだネット記事で『朽ちないサクラ』は「もともと一冊完結のつもりだった」という作者の言葉がありました。

ただ、そこでは『朽ちないサクラ』の最後で泉が「警察官になる!」と宣言していたことや読者の声もあって続編を書いたと書いてあったのです。

作品が先にあって後に森口泉を主人公にしたのではなく、執筆依頼がまずあって、同じ出版社で森口泉を書いていたこと、さらに現実に警察には捜査支援分析センターという組織があること、また、ある警察署の金庫から現金が盗まれた事件があったことなどから本書を書いたそうです。

 

前巻の『朽ちないサクラ』では、泉と泉の同期の磯川俊一と共に親友だった新聞記者の津村千佳の死の謎を調べていました。

それに対し本書では、事件現場で収集した情報を解析しプロファイリングすることを業務とする機動捜査係というチームでの捜査が主になっています。

この機動捜査係の職務が普通の警察小説の捜査とは異なります。

「自動車ナンバー自動読み取り装置」いわゆるNシステムのデータや防犯カメラの映像などの事件現場で収集された情報を解析しプロファイリングすること解析業務を主な業務としているのです。

その機動捜査係のメンバーは、クールな印象の係長の黒瀬仁人警部を中心に、配属されて八年目の哲こと市場哲也、六年目の真こと日下部真一、四年目の春こと春日敏成、二年目の大こと里見大の五人です。

この機動捜査係に泉が配属されたのですが、この面々のキャラクターがよく描けていて、今野敏の『安積班シリーズ』を思い出させるチームワークの良さが描かれています。

 

 

特に係長の黒瀬のキャラクターが、それなりの過去をもって形成されているという設定は、どこかで聞いたような設定ではあります。

ただ、黒瀬に対し一班員ではあるものの黒瀬と昔からのつながりがありそうな市場哲也の存在が光っています。

 

本書『月下のサクラ』での見どころの一つと言っていいかもしれないのが、泉のデータ分析の場面です。

頭の中で記憶した映像がビデオテープのように再生され、映像の隅には時刻を表す数字が羅列されているというのです。この泉の能力を発揮する場面は読みごたえがあります。

ただ、泉は訓練で記憶力を格段に鍛えたということになっていますが、こうした特殊能力が数年の訓練で獲得できるものなのか、疑問が無いわけではありません。

しかしながら、現実の防犯映像などの調査も結局は似たような地道な捜査の上になり立っているのでしょうから、その作業を少々デフォルメしたと考えていいのでしょう。

 

本書『月下のサクラ』で一番気になったのが、捜査二課に配属された泉が機動分析係を志望した動機、意味が今一つよく分からないということです。

本文では単に捜査の最前線で活躍できるからとあったのですが、そもそも捜査第二課という知能犯係は捜査の最前線ではないということになりかねず、疑問に思ってしまいました。

 

とはいえ、本書の面白さは間違いのないところです。

柚月裕子の新しいシリーズの誕生であり、続巻が待たれるシリーズが増えたことになります。

[投稿日]2021年08月26日  [最終更新日]2021年8月26日
Pocket

おすすめの小説

新宿花園裏交番 坂下巡査 ( 香納 諒一 )
香納諒一著の『新宿花園裏交番 坂下巡査』は、新宿を舞台にした人情味豊かな連作中編の警察小説です。ゴールデン街や区役所通りが近い、ここ“花園裏交番”は、配置人員と酒がらみのトラブルの多さから「裏ジャンボ交番」と呼ばれている。
隠蔽捜査シリーズ ( 今野 敏 )
正論を正論として生き抜くキャリアが主人公です。
制服捜査 ( 佐々木 譲 )
札幌で刑事として長年勤務していた川久保篤巡査部長が、十勝の田舎の駐在さんになり、さまざまな事件を解決する、かなり読み応えのある小説です。
新宿鮫シリーズ ( 大沢 在昌 )
「新宿鮫」シリーズは、キャリアでありながら第一線で捜査活動を行う新宿署の鮫島警部の活躍が描かれます。シリーズ三作目の『無間人形』で直木賞を受賞しています。
マークスの山 ( 高村 薫 )
直木賞受賞作品。この本を含む「合田雄一郎刑事シリーズ」は骨太の警察小説です。

関連リンク

柚月裕子、新刊「月下のサクラ」で孤立無援の女性刑事が見つけた居場所
作家・柚月裕子さんの最新刊「月下のサクラ」(徳間書店)は、警察組織に巣くう不条理に立ち向かい、日々成長していく女性刑事の姿を描いた長編小説です。
月下のサクラ 柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)著:東京新聞
警察小説というと、聞き込みのため靴底をすり減らす刑事が主人公――というイメージが強かったのは昭和の話。横山秀夫の登場以降、警察のさまざまな部署を描いた警察小説が増えている。
「月下のサクラ」柚月裕子著|日刊ゲンダイDIGITAL
機動分析係志望の森口泉は実技試験に失敗したが、黒瀬係長の強力な推薦で配属されることに。ある日、当て逃げ事件が発生し、その捜査に当たっていたとき、会計課の金庫から1億円ちかい現金が紛失するという事件が発生した。
刑事・森口泉シリーズ第2弾 彼女が対峙する驚くべき黒幕とは
『朽ちないサクラ』に続く刑事・森口泉を主人公とするシリーズの第2弾。冒頭から緊迫感あふれる追跡劇が展開するが、ここにはちょっとした仕掛けが施されていて、私達は作者に軽くいなされてしまう。
警察組織の「闇」に立ち向かう新米刑事 『孤狼の血』『盤上の向日葵』の柚月裕子が描く警察ミステリ
5月25日トーハンの週刊ベストセラーが発表され、文芸書第1位は『52ヘルツのクジラたち』が獲得した。第2位は『白鳥とコウモリ』。第3位は『小説8050』となった。
不条理と戦う女性刑事を通して“人間”を描く『月下のサクラ』柚月裕子インタビュー
一つではない正義を前に、「自分は正しいのだろうか」との問いを抱きつつ、不条理に立ち向かう女性警察官の成長を描いた柚月裕子さんの『月下のサクラ』。
柚月裕子が語る、善悪の境の曖昧さ 「“何が正しいのだろう”という問いは延々と紡がれていく」
『朽ちないサクラ』から6年、シリーズ2作目の『月下のサクラ』が5月15日にリリースされた。主人公・森口泉は前作のラストの宣言通りに警察官になり生活を送っていた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です