『チョウセンアサガオの咲く夏』とは
本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は2022年4月に刊行された、234頁のオムニバス短編小説集です。
ショートショートを中心にした短編集だったためか、一読した時点ではエンタメ性が少ないと感じ、いつもの柚月裕子作品とは異なり私には合わない作品集だとの印象でした。
『チョウセンアサガオの咲く夏』の簡単なあらすじ
「佐方貞人」シリーズ、「孤狼の血」シリーズ、『盤上の向日葵』『慈雨』など数々のベストセラー作品を世に送り出してきた著者。ミステリー、ホラー、サスペンス、時代、ユーモアなど、デビュー以降の短編をまとめた、初のオムニバス短編集。「佐方貞人」シリーズスピンオフ「ヒーロー」収録。(「BOOK」データベースより)
『チョウセンアサガオの咲く夏』の感想
本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は、これまで書いてきた作品の中でどこにも収められていない作品を集めたという印象の、何ともとりとめのない作品集です。
各作品をざっと眺めると、軽いホラーの「チョウセンアサガオの咲く夏」「愛しのルナ」、ちょっとひねりを利かせた短編である「お薬増やしておきますね」「初孫」「原稿取り」。
そして、貧困故に奉公に出されいじめに遭う少年と一人の瞽女の少女との話「泣き虫の鈴」や、南の島国パラオのかつての日本軍の話の「サクラ・サクラ」。
また、母に捨てられ、その母を失った女の慟哭を描く「泣く猫」、一人の瞽女の少女の話の「影にそう」、何とも不思議な物語の「黙れおそ松」。
そして、「佐方貞人シリーズ」のスピンオフ作品の「ヒーロー」という作品が追加されています。
先に、なんともとりとめのない話と書きましたが、個人的にはあまり意味がよく分からない印象の作品がいくつかありました。
例えば、「サクラ・サクラ」は第二次世界大戦中の南太平洋での話であり、ここで描かれている事柄自体は実話らしいのです。ただ、史実をそのままに描いているようで、この物語を描いた意味が今ひとつ分かりませんでした。
たんに、太平洋戦争という不幸な時代に、軍人の中にもこのような人がおり、記されているような事実があったということを知らしめたいのでしょうか(ウィキペディアの「ペリリューの戦い ペリリュー島の島民の項」 : 参照 )。
でも、後に著者の柚月裕子のインタビュー記事を読んでみると、それぞれの作品には与えられたテーマがあったと書いてあり、少しだけ納得した気がします( 柚月裕子インタビュー : 参照 )。
「「チョウセンアサガオの咲く夏」「愛しのルナ」「影にそう」は、『5分で読める!ひと駅ストーリー』シリーズで掲載されたショートショートです。
「チョウセンアサガオの咲く夏」は同シリーズ『夏の記憶 東口編』に、「愛しのルナ」は『猫の物語』におさめられており、個人的には今一つの印象でした。
「影にそう」は同シリーズ『旅の話』に入っていて、瞽女の少女の、彼女を世話する親方の哀しい、しかし心に沁みる話でした。
猫に関した話でいえば、「愛しのルナ」の他に「泣く猫」という作品があり、こちらは母を亡くした女性の心の内を探る好編でした。
ところがもう一遍、猫が出てくる物語がありますが、それが「黙れおそ松」であって猫の視点で書いてあります。この作品もちょっと中途半端な印象でした。
これは、私が「おそ松さん」というアニメを見たことがないのでそう感じたのかもしれません。
本書の最後におさめられている「ヒーロー」は、この著者柚月裕子の『孤狼の血シリーズ』と並ぶシリーズ作品である『佐方貞人シリーズ』に登場してくる、検察事務官の増田を主人公とする短編です。
『佐方貞人シリーズ』の色をとても濃く残している作品であり、このシリーズの特徴の一つでもある物語の「青臭さ」をそのままに残した作品です。
結局、本書『チョウセンアサガオの咲く夏』は、いろいろな雑誌に発表された作品をまとめた作品集らしく、ごった煮のような作品集だとも言える作品集でした。