本書『紀之屋玉吉残夢録シリーズ』は、時代小説には珍しい幇間を業とする男を主人公とする長編の時代小説です。
玉吉が捕物帳的にとある事件の謎を解く、という話ですが、とてもハードボイルド色の強い、面白い物語として仕上がっています。
主人公玉吉は門前仲町の芸者置屋「紀之屋」の幇間です。いわゆる太鼓持ちです。
曽呂利新左衛門がその機知を生かし太閤秀吉のご機嫌伺いをしていたため、座敷で旦那衆の機嫌を取ることを「太閤持ち」から「太鼓持ち」というようになったという説もあると、ウィキペディアに書いてありました。
玉吉は元御家人で本名を澤井格之丞といい、蝦夷地にわたり辛苦の末に舞い戻ってきたという設定です。剣術の腕も相当なもので、そこを与力の中島嘉門に目をつけられ、言わば仕置人のような仕事を持ちかけられます。
巻を追うごとにハードボイルドタッチが強くなっています。そのことは面白くていいのですが、巻が進むにつれて幇間という当初の設定があまり意味を持たなくなっているのが少し残念な気もします。
思いのほかテンポのいい文章です。その文体のテンポの良さはどこから来るのか、そのリズムの心地よさについつい本が置けずに一気に読んでしまいます。
この作家は時代背景や場面説明などの書き方のタイミングが良く、またその説明も簡潔で小気味良いのです。そうした文章の過不足の無い簡潔さが、心地よいりズを作っている原因の一つではないでしょうか。
とにかく、私には好みの面白いシリーズですが、残念ながらこのシリーズ以外の作品は無いようです。