一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。( 上巻 : 「BOOK」データベースより )
敵は七人の魔女、待ち構えるのは英国海軍。ホルムズ海峡を突破せよ!戦後、国際石油カルテル「セブン・シスターズ」に蹂躙される日本。内外の敵に包囲され窮地に陥った鐡造は乾坤一擲の勝負に出る。それは大英帝国に経済封鎖されたイランにタンカーを派遣すること。世界が驚倒した「日章丸事件」の真実。( 下巻 : 「BOOK」データベースより )
出光興産の出光佐三をモデルとしたこの小説はまさにドラマであり、不屈の男の一代記です。つまり、いわゆるメジャーと言われる国際的な石油資本に対し、それに属しない独立系の会社という意味での民族派の石油資本である出光興産を起こした男の物語です。
この本の中にもありますが、私の地元の小(中?)学生の代表が、出光丸を見学するために上京した記憶があります。また、私が多分中学校の時の修学旅行の行き先の一つに、徳山にある出光興産の石油化学工場がありました。
本書の主人公国岡鐵造は日田重太郎から資本提供をうけ、国岡商店を興します。その後個人商店からから会社組織になり、その会社はやがて満州鉄道へ食い込むほどに成長します。そして、戦後の一からのやり直しの中育っていた社員という人材の力を合わせて、この困難を乗り越えるのです。そうした中での日本の独自の石油確保のための日章丸事件などの山を乗り越え、日本の石油産業がメジャーのくびきから解放されるまでの苦難の道のりが描かれています。
特に下巻の日章丸事件のくだりなどは手に汗握る男の物語であり、実話だとはとても思えないほどです。そうした男達の努力の上に今の私たちの生活があるということを忘れてはならないでしょう。
ただ、主人公と対立するメジャーの傀儡として描かれている旧来の石油業界が、あまりに一方的に悪とされている点が若干気になりました。もう少し旧勢力の側の事情を加味した描き方であれば更にのめりこめたのに、と思わざるを得なかったのです。とはいえ、旧勢力がメジャーの息がかかっていたことは事実でしょうから個人的な好みの問題になるのかもしれませんが。
2013年の「本屋大賞」受賞作品です。
同じような経済人の一代記としては、城山三郎の価格破壊という作品がありました。今ではもうありませんが、あのダイエーを興した中内功をモデルとした作品で、既存の大手企業との闘いはもであるがあると知って驚いたものです。
また、一昔前の作品になりますが、獅子文六の大番は、戦後の東京証券界でのし上がった男の一代記を描いた痛快人情小説です。実在の相場師、佐藤和三郎をモデルにした作品で、日本橋兜町での相場の仕手戦を描いていて、面白さは保証付きです。