本書『オレたちバブル入行組』は、『半沢直樹シリーズ』の第一弾の長編の痛快経済小説です。
勧善懲悪ものの痛快小説の面白さを十二分に備えた、実に面白い物語でした。
大手銀行にバブル期に入行して、今は大阪西支店融資課長の半沢。支店長命令で無理に融資の承認を取り付けた会社が倒産した。すべての責任を押しつけようと暗躍する支店長。四面楚歌の半沢には債権回収しかない。夢多かりし新人時代は去り、気がつけば辛い中間管理職。そんな世代へエールを送る痛快エンターテインメント小説。(「BOOK」データベースより)
言わずと知れた2013年版の大ヒットテレビドラマ『半沢直樹』の原作となった作品の第一弾です。
わたしはドラマを見なかったので詳しくは分からないのですが、本書はドラマの第一部「大阪西支店編」の原作だそうです。
でも、あまりに『半沢直樹』の評判が良いので、その後に放映された同じ池井戸潤の『下町ロケット』を原作とするテレビドラマ『下町ロケット』を見たのですが、話題になるのも当然の出来でした
バブルも華やかなりしころに産業中央銀行に入行し、大阪西支店融資課長として赴任していていた半沢直樹ですが、支店長の浅野の指示で融資をしたものの回収不能になってしまいます。
浅野支店長は当然のごとく半沢に責任を押し付けます。しかしながら、そこで黙ってしまう半沢ではなく反撃を開始しますが、そのためには何とか債権の回収を図るしかないのです。
本書はまさに痛快経済小説という言葉がピタリとくる内容でした。また、ドラマ版の面白さも推して知るべしでしょう。
普通の人間が権力者(強者)に対し反旗を翻し、困難に直面しながらもそれを乗り越えて自らの主張を押し通す、その様はまさに痛快活劇小説以外の何物でもなく、本書もまたその形式が当てはまる話であって、勧善懲悪の物語なのです。
ましてや、そこに「銀行」という一般人の知らない職域の情報が盛り込まれ、更に銀行の業務を通して経済の仕組みまで透けて見え、経済の仕組みの基礎的な知識まで教えてくれるのですからこれが受けないわけはない、というのが素直な印象でした。
経済の仕組みまで教えてくれるという点を除いた「痛快」という点では、今人気の小説で言えば佐伯泰英の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』にも通じると言えるのかもしれません。
市井に暮らす浪人が与力や幕府の実力者、ひいては将軍にまで知己を得、悪漢を懲らしめるという展開は本書に通じるものがあると感じます。
また、経済の面での痛快小説というと、私としては獅子文禄の『大番』ということになるでしょうか。
田舎から上京した青年が、相場の世界で自分の腕一本でのし上がっていくその物語は実に痛快でした。