佐伯 泰英

吉原裏同心シリーズ

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晩節遍路』とは

 

本書『晩節遍路 吉原裏同心(39)』は『吉原裏同心シリーズ』の第三十九弾で、2023年3月に新潮社から344頁の文庫本書き下ろしで刊行された長編の痛快時代小説です。

神守幹次郎の台詞などが芝居調であることは前巻と同じであり、やはり敵役も結末も含めて今一つの一冊でした。

 

晩節遍路』の簡単なあらすじ

 

吉原会所の裏同心神守幹次郎にして八代目頭取四郎兵衛は、九代目長吏頭に就任した十五歳の浅草弾左衛門に面会した。そして吉原乗っ取りを目論む西郷三郎次忠継が弾左衛門屋敷にも触手を伸ばしていることを知る。一方、切見世で起きた虚無僧殺しの背後に、吉原をともに支えてきた重要人物がいることに気づく幹次郎。覚悟を持ち、非情なる始末に突き進んでいく。(「BOOK」データベースより)

 

晩節遍路』の感想

 

本書『晩節遍路 吉原裏同心(39)』は、新しく吉原会所の八代目頭取四郎兵衛となった神守幹次郎の苦悩する姿が描かれています。

非人頭の車善七に将軍家斉の御台所総用人の西郷三郎次忠継という男が吉原に触手を伸ばしていることを告げた幹次郎は、九代目長吏頭の浅草弾左衛門なる人物に会うようにと示唆されます。

そこで弾左衛門の後見人である佐七と名乗る男と、思いがけなくもさわやかさを漂わせた九代目浅草弾左衛門を継いだ十五歳の若者と面会することになるのでした。

後日幹次郎は、山口巴屋で灯心問屋彦左衛門の名で予約の入っていた佐七と会い、西郷三郎次忠継の本名が市田常一郎であり、家斉正室近衛寔子の実母の家系市田家の縁戚であることなどを教えてもらいます。

また、九代目弾左衛門就任に至るまでの間の西郷一派との確執や、次に西郷一派が狙ったのが色里吉原であることなどの話を聞き、さらには神守幹次郎一人が西郷三郎次忠継を始末することを暗黙の裡に受け止めるのでした。

 

一方、澄乃の心配事は吉原を、特に三浦屋を見張る謎の視線でした。

幹次郎が当代の三浦屋四郎兵衛に糺すと、根岸村に隠居した先代の四郎兵衛の名が浮かんできたのです。

ここに幹次郎は、西郷一派との争いと、先代四郎兵衛との問題を抱えることになるのでした。

 

本書『晩節遍路 吉原裏同心(39)』でも神守幹次郎の吉原裏同心と吉原会所四郎兵衛との掛け持ちは、まるで舞台劇だという前巻『一人二役』で感じた印象がそのままあてはまります。

百歩譲って、例えば神守幹次郎自身の、幹次郎本人が見知った事実を四郎兵衛に伝えるなどの言いまわしを受け入れるとしても、そのことは第三者が裏同心としての神守幹次郎と八代目四郎兵衛としての神守幹次郎とで態度を変えるなどの使い分けをすることまで認めるということにはなりません。

その点への著者佐伯泰英のこだわりはまさに舞台脚本であり、痛快時代小説としてはなかなかに受け入れがたいとしか感じられないのです。

 

前巻から批判的な文章ばかり続きますが、シリーズとしての面白さはまだ持っているという所に佐伯泰英という作者の不思議さがあります。

痛快時代小説としての面白さまで否定することはできず、やはり本シリーズを読み続けるのです。

[投稿日]2023年07月08日  [最終更新日]2023年7月8日
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