佐伯 泰英

酔いどれ小籐次留書シリーズ

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青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』とは

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』は『新・酔いどれ小籐次シリーズ』の第十九弾で、2020年11月に文庫本で刊行された355頁の長編の痛快時代小説です。

 

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』の簡単なあらすじ

 

江戸で有名な盗人「鼠小僧」は自分だ、とついに明かした子次郎。忍び込んだ旗本の屋敷で出会った盲目の姫君を救って欲しい、と小藤次に頼む。姫を側室にと望んでいるのは、大名・旗本の官位を左右する力を持つ高家肝煎の主で、なんと「幼女好み」と噂のある危険な人物だという…懐剣を携え悲壮な決意をする姫を毒牙から守れるか。(「BOOK」データベースより)

 

第一章 桃井道場様がわり
前巻『鼠異聞』で、桃井道場の年少組の五人と北町奉行所与力見習の岩代壮吾を加えた六人と共に、久慈屋の紙納めの旅の付き添いという大役を終えた小籐次親子だった。この旅は岩代壮吾や年少組にも学びがあったようで、剣術の稽古も見違えるものとなっていた。

第二章 望外川荘の秘密
久しぶりに鈴とお夕の望外山荘宿泊が決まった日、小籐次とおりょうは夕の父桂三郎の悩みについて相談をしていた。また、子次郎は件の懐剣の持ち主を助けてほしいと願ってきていた。また、駿太郎は望外山荘に新たに見つけた屋根裏部屋について二人に話していた。

第三章 桂三郎の驚き
望外山荘へとやってきた夕の両親の桂三郎とお麻は小籐次から独立の話を聞いたが、世話になっている小間物屋との関係で不安があった。すべてを委ねられた小籐次は小間物屋へ行き、今後品物を納めることはないとの話をつけるのだった。

第四章 おりょうの迷い
おりょうは久慈屋の隠居所を飾る画としては余生を過ごす場には萍(うきくさ)紅葉の方がいいと考えながら筆を動かしていた。一方小籐次は懐剣の持ち主の三枝家の目の見えない薫子に会い、三枝家のために高家肝煎に差し出されたのちに自害するつもりであることを知る。

第五章 旅立ちの朝(あした)
小籐次は薫子を望外山荘へ隠したところ高家肝煎大沢基秌に雇われた五人組が現れたものの、駿太郎と岩代壮吾が待ち構えていた。小籐次は新八やおしん、それに子次郎と共に高家肝煎大沢基秌を三枝家で待ち構えるのだった。

 

青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』の感想

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』では、前巻の『鼠異聞』で登場した子次郎が研ぎを依頼してきた懐剣の持ち主の薫子姫をめぐる物語が中心になっています。

と同時に、小籐次のもとの住まいである新兵衛長屋の住人である錺職人の桂三郎とその娘のお夕の新しい仕事場を設けることに奮闘する小籐次の姿もあります。

つまりは、常と変わらない小籐次親子のいつもの日常が描かれているのですが、そこでは駿太郎の成長とあわせて桃井道場の年少組の仲間たちの成長も描かれることになります。

こうした小籐次の周りの人々についての描写もシリーズの魅力の一つになっていると思われます。

 

とはいえ本シリーズの一番の魅力は、もくず蟹に似ている来島水軍流の遣い手である小籐次という人物その人のキャラクターであることは間違いありません。

そもそも小籐次は、浪人となって四家の大名行列に斬り込み掲げられている御鑓を奪って旧主の恥辱を雪いだことから一躍江戸の人気者となったという人物ですからよくできています。

その小籐次も初期の設定からはかなり変化を見せ、今ではおりょうという昔から片想いの女性とも結ばれており、駿太郎という大人顔負けの息子も授かっています。

親子で研ぎ仕事をこなしながら、久慈屋やそのほかの様々な人たちから持ち込まれる難題をこなし、久慈屋の主からも皆小籐次に頼り過ぎだと言われるほどになっているのです。

 

本書『青田波 新・酔いどれ小籐次(十九)』でもそのことは同様で、前巻『鼠異聞 新・酔いどれ小籐次』から登場してきている子次郎の持ち込んだ懐剣にまつわる姫君を救うという難題に挑むことになります。

この姫君がまた小説の中にしか存在しえないだろうほどの純真無垢な存在で、だからこそ子次郎も命懸けでこの姫君を守ろうという気にさせられるのですが、こうした存在も小籐次シリーズならではのことかもしれません。

時代小説で「男の夢」を描いてきたという佐伯泰英という作家ならではの一つの証がこういう点にも表れていると言えるのでしょう( 本の話 : 参照 )。

また、本書『青田波』では新兵衛長屋に住む小籐次の昔馴染みのお夕親子の新しい職場も久慈屋の力を借りて設けたりと、実に忙しい小籐次です。

 

このシリーズもすでに四十巻を軽く超え、そうは長くないという情報もあります。

個人的には佐伯泰英の書く痛快時代小説シリーズの中では一番好きなシリーズですから終わるのはとても残念なことですが、それも仕方のないことなのでしょう。

残り少ない物語をゆっくりと楽しみたいと思います。

[投稿日]2022年04月27日  [最終更新日]2022年4月27日
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