本書『椿落つ 新・酔いどれ小籐次(十一)』は、新・酔いどれ小籐次シリーズの第十一弾です。
あい変らずの小籐次の活躍ですが、少々敵役に難ありという印象の一冊でした。
小藤次は、久慈屋昌右衛門との伊勢道中で知り合った三吉と再会したが、彼は酒飲みで乱暴者の父親のもとで苦労していた。職人になりたいという三吉に力を貸そうとするそんな折、父親が殺された。下手人は三吉を我が物にしようとする「強葉木谷の精霊」一味。敵は人か物の怪か、三吉を守るため小藤次は死闘を繰り広げる―。(「BOOK」データベースより)
以下は簡単なあらすじです。
第一章 二頭の犬
前々巻「船参宮」で三吉らと共に伊勢詣でをした野良犬のシロが望外川荘の新しい家族になった。このシロは体毛は純白でクロスケとは全く対照的だったが、クロスケも難なく受け入れるようだった。その三吉が父親によって男娼に売られようとし、やはり、小籐次のもとで暮らすことになる。
第二章 三吉の迷い
腕に技を持つ職人になりたい三吉は、小籐次に錺職のお夕らの仕事を見せられ何か考え込む。ところが、三吉の父親が「強葉木谷の精霊」の名が記された木片を持ったまま殺されてしまうのだった。
第三章 森藩の奇禍
久慈屋の店頭にいる小籐次らのもとに密偵のおしんがやってきて、強葉木谷の精霊の様子を知らせて来た。一方、森藩久留島家の池端恭之介が、前巻「げんげ」で采女と逃げた国兼鶴之丞が殺されたと言ってきた。
第四章 初めての真剣勝負
国兼の葬儀を済ませた小籐次は、神奈川宿で見つかった采女らのことを処理したが、三吉が攫われてしまう。
第五章 強葉木谷の変
三吉を救い出すために小籐次と駿太郎らは品川御殿山裏の強葉木谷の精霊一味と対決すべく向かうのだった。
本書『椿落つ 新・酔いどれ小籐次』では、前々巻「船参宮」で登場した三吉とシロとがふたたび登場し、彼らを巻き込んだ騒動が描かれ、更に前巻「げんげ」で問題になった采女と国兼鶴之丞らのその後が描かれています。
采女の件は、小籐次の旧主森藩藩主久留島通嘉の火遊びのぼや消しに小籐次が駆り出された、ということであり、小籐次はただ手間を食う処理に追われます。
もう一つの事件である三吉の件は、三吉の将来にもかかわり、また強葉木谷の精霊と称するはっきりとはしない存在まで登場した一応の活劇になってはいます。
職人になろうとする三吉の姿はさすがにそれなりに練られ、納得のできるストーリーとしてあるのですが、その親や敵役の描写が少々中途半端に感じられました。
とはいえ、出来すぎの駿太郎や三吉など、本書に登場する子供らはよく成長しているものです。
小籐次が若い頃を過ごした品川近くを舞台にしている「強葉木谷の精霊」一味の、三吉が絡んだ話についてはその実態がよくわかりません。
何か敵役を登場させなければならないため、それらしき存在を作り出した、という印象が強く、敵役としてあまり存在感がないのです。
強葉木谷の精霊の手下の品川宿の呉徳という男も、単に坊主頭のどでかい男というだけですし、クライマックスに突然登場する薙刀使いの白草丸と名乗る人物などただ登場するだけです。
結局、本書『椿落つ 新・酔いどれ小籐次』の感想と言えば、小籐次の魅力はわかっているので、もう少し敵役を丁寧に描いてほしいといことになるでしょう。
それくらい、本書の敵役には魅力を感じませんでした。
次作を期待します。