佐伯 泰英

酔いどれ小籐次留書シリーズ

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北町奉行所の年番与力が、小籐次に面会を求めてきた。極秘の依頼があるらしい。その晩遅く、酔った小籐次が嵐のなか望外川荘に帰ろうとするのが目撃される。だが翌朝、小籐次は帰宅しておらず、小舟や蓑などだけが発見された。奉行所の依頼とは何だったのか、そして小籐次は死んでしまったのか!?緊迫の書き下ろし第10弾!(「BOOK」データベースより)

 

新・酔いどれ小籐次シリーズの第十弾の長編の痛快時代小説です。

 

第一章 殿様の愛妾
お伊勢参りから帰った小籐次は、近習頭の池端恭之介から、旧主森藩の久留島通嘉がわりない仲になった娘の采女のことが奥方に知られたため、何とかしてほしいと泣きつかれた。小籐次は阿蘭陀宿の長崎屋へ、お納戸役の国兼鶴之丞をつけて送り込むのだった。

第二章 げんげ見物
帰りそびれた小籐次を心配して久慈屋へと様子を見に来た俊太郎は小籐次とともに久慈屋の店先で研ぎに精出すが、明日は押上村にげんげの花を見に行こうと仕事も早々に帰り支度を始めるのだった。「げんげ」とは蓮華草のことであり、翌日、おりょうらとともに押上村へとげんげの花を見に行く小籐次らだった。

第三章 妙な頼み
小籐次が北町奉行所年番方与力の米郷主水から頼まれごとをした翌日、小籐次の小船が転覆しているのが見つかり、小籐次の死去が確実となった。そこに公儀の呉服御用達後藤縫殿助の店について空蔵が、呉服師後藤家三代の奇禍について老中青山忠裕の密偵おしんが、それぞれ小籐次を訪ねてきた。

第四章 小籐次の死
俊太郎は新兵衛長屋に隠しておいた次直も金子もなくなっていることに気づき、小籐次の死について中田新八とおしんに尋ねるのだった。俊太郎はその夜から新兵衛長屋で過ごすこととしたが、案の定「今晩九つ半、芝口橋」との文が届いた。

第五章 死に損ない
九つ半近く、陣笠に羽織袴の捕物出役姿の与力が、同心二人と御用提灯を手にした小物数人を従えて久慈屋に戸を開けるように言ってきた。

 

今回は小籐次の旧主である森藩の久留島通嘉の女遊びの後始末に奔走する小籐次の姿から始まります。

ただ、この藩主の尻ぬぐいの話は本筋ではなく、小籐次死亡の疑いこそが本筋の物語です。こちらの話だけで一編の物語ができそうと素人ながらに思うのですが、作者はわざわざ細かなエピソードとして挿入しています。

作者は、小籐次と旧主久留島通嘉との繋がり、それも久留島通嘉の女遊びの尻ぬぐいという下世話な世話焼きまでやるという親密さを描いておくことに意味があると思われたのでしょう。

 

ともあれ、小籐次の死亡という一大事件が巻き起こる本書ですが、そこにはこの事件の裏をも見通すまでに成長した息子俊太郎の姿がありました。

この作者には人気シリーズの『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』があり、そちらでも磐音の息子の空也の活躍が描かれています。そちらは剣豪小説であり、また剣の道に邁進する少年の姿を描いた青春小説とも言えそうですが、本書の場合はあくまでも小籐次がメインであり、俊太郎はシリーズの彩りでしかありません。

とはいえ、大きな彩りであり、今後このシリーズの大きな柱となっていくことに間違いはないと思われます。

 

この物語も、市井に暮らす浪人小籐次の普通の生活、という流れから、おりょうを娶り、優雅な生活を得、とてものことに貧乏浪人の物語からは遠ざかっています。

磐音の物語が途中から高尚な剣豪小説の趣をまとい始めたようにはならずにいてほしいと思います。本来は貧乏浪人小籐次の活躍をこそ見たいのですが、せめて現在の小籐次のままでいてほしいのです。

[投稿日]2019年05月14日  [最終更新日]2019年5月14日
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