『漂泊の街角』とは
本書『漂泊の街角』は『佐久間公シリーズ』の第三弾で、1985年12月に双葉ノベルスから刊行され、1995年10月に角川文庫から320頁の文庫として出版された、短編の青春ハードボイルド小説集です。
『漂泊の街角』の簡単なあらすじ
“宗教法人炎矢教団総本部”この教団から娘・葉子を連れ戻してほしい―というのが今回の僕への依頼であった。僕が原宿にあるその教団へ娘を迎えに行くと、彼女は意外にも素直に教団を後にした。教団幹部の“オーラの炎によって彼女の身に恐しい出来事が起こる”という不気味な言葉を背に受けながら。依頼はあっさり解決した。但し、その肉のうちに葉子が喉を裂いて冷たくなっていなければ…。(炎が囁く)街をさまよう様々な人間たち。失踪人調査のプロ・佐久間公が出会う哀しみと歓び。事件を通して人生を綴るシリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
『漂泊の街角』の感想
本書『漂泊の街角』は『佐久間公シリーズ』の第三弾の短編の青春ハードボイルド小説集です。
本書でも主人公佐久間公はかなりキザです。しかしながら、本書の出版時期が前作から四年近くも経っているからか、前作ほどに鼻につくというほどではありません。
全体的に、主人公の佐久間公の存在が落ち着いてきている印象はありました。それは作者大沢在昌の筆がうまくなったものか、読み手の私が佐久間公という存在に慣れたのか、それは分かりませんが、多分作者のうまさでしょう。
第三話の「悪い夢」は、佐久間公が撃たれ、瀕死の重傷の中で物語が進行するという話です。ハードボイルドとしてはそれほど好みではなかったのですが、佐久間公という個人を裏から描いた作品であり、わりと気になる作品でした。
この作品には岡江という新たな探偵が登場しますが、この岡江がこれから先、このシリーズにどのようにかかわってくるのかよくわかりません。
もしかしたら、「悪い夢」に限っての登場なのかもしれませんが、多分シリーズに関わってくるのだろうと思います。それだけの存在感を持っているのです。
もう一話、五話目の「ダックのルール」が、妙に気になりました。
傭兵が安定的な生活を求めて危険を冒すという設定なのですが、これまでに読んだことがない設定ということもあり、少々違和感を感じたのも事実です。
佐久間公という調査員の話からすると少々物騒で、飛びすぎているという印象ですが、ダックという男が気になったのだと思います。
ミステリーとしては最終話の「炎が囁く」が一番しっくりきた話でした。
読者としてミステリーの展開に関心が持てたのもありますが、公の相棒である沢辺とともに行動する点で、私の好みのリズムになっていたのが一番のような気がします。