『君を守ろうとする猫の話』とは
本書『君を守ろうとする猫の話』は、2022年9月に288頁のハードカバーで小学館から刊行された長編のファンタジー小説です。
2017年1月に刊行された『君を守ろうとする猫の話』の続編であり、前作と同様に「本」の大切さを訴えている作品で、ファンタジーとして面白い作品だとは言い難い作品でした。
『君を守ろうとする猫の話』の簡単なあらすじ
お前なら、きっと本を取り戻せるはずだ。
幸崎ナナミは十三歳の中学二年生である。喘息の持病があるため、あちこち遊びに出かけるわけにもいかず学校が終わるとひとりで図書館に足を運ぶ生活を送っている。その図書館で、最近本がなくなっているらしい。館内の探索を始めたナナミは、青白く輝いている書棚の前で、翡翠色の目をした猫と出会う。
なぜ本を燃やすんですか?
「一番怖いのは、心を失うことじゃない。失った時に、誰もそれを教えてくれないこと。誰かを蹴落としたときに、それはダメだと教えてくれる友達がいないこと。つまりひとりぼっちだってこと」
ようこそ、新たな迷宮へ。(内容紹介(出版社より))
『君を守ろうとする猫の話』の感想
本書『君を守ろうとする猫の話』は、2017年に刊行された『本を守ろうとする猫の話』の続編です。
本書の主人公は、幸崎ナナミという中学二年生の少女です。
持病の喘息で運動ができないために毎日通っていた図書館で本がなくなっていることに気付いたナナミは、探索の途中言葉を話す猫に出会うのでした。
トラネコのトラと名乗るその猫と共に青白く光る書棚の先へと踏み出すと、そこには血の気の無い土気色の顔をした兵士に守られた石造りのお城がありました。
そしてその城の中では世界中から集められた本が燃やされており、その奥の将軍の間にはスーツ姿の将軍がいたのです。
こうしてナナミとトラ猫との冒険譚が始まります。お城を脱出したナナミたちは夏木書店の書棚に現れ、第一作の『本を守ろうとする猫の話』の主人公であった夏木林太郎と出会います。
その後、再びお城へと戻ったナナミたちは「宰相の間」にいた宰相や「王の間」の王に会うことになるのでした。
冒頭に述べたように、本書をファンタジー小説として見る時、決して面白いファンタジー作品とは言えないと思います。
そのことは前作の『本を守ろうとする猫の話』でも思っていたことです。
ただ、ファンタジー物語としての物語のストーリー展開は面白いとは言えなくても、そこに込められたメッセージは前作と同様に強烈なものがありました。
つまりは、書物に対する愛情という点では本書でも同様であり、書物に対する敬愛の念がストレートに表現されていて、単なる冒険物語の枠を超えて心に訴えてくるものがあるのです。
ただ、若干の疑念はありました。
作者の言う「書物」は「良書」ということであり、それに対する「悪書」は作者の言う「書物」には入っていないように思われます。
そして、その「良書」と「悪書」の選別の基準が明確でない以上、書物の有用性を語るにしても明確ではないのではないでしょうか。
つまりは「良書」という概念が入る以上は結局は判断の恣意性を排除できず、結局は作者の主張する書物の有用性自体が曖昧になると思うのです。
ただ、繰り返しますが前作同様に「本」の大切さを訴えている素晴らしい作品だとは思います。
書物に対する愛情を感じた作品といえば、高田大介の『図書館の魔女シリーズ』が思い出されました。
高田大介著の『図書館の魔女シリーズ』はタイトルからくる印象とは異なり、口のきけない娘を主人公とする、剣と魔法ではない「言葉」にあふれた異色のファンタジー小説です。
また、三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』もまた本に対する愛情がよく分かる作品でした。
このシリーズは、北鎌倉にある古書店「ビブリア古書堂」の主である篠川栞子と、アルバイト社員である五浦大輔を中心に、古書にまつわる謎を解き明かしていくミステリーです。
シリーズ累計で310万部を超える大ヒットとなり、『2012年本屋大賞』にもノミネートされました。
結局、本書の印象としては、「本」の大切さを訴えている素晴らしい作品だとは思いますが、ファンタジー物語としては面白いとは言えないということになります。
しかしながら、「書物」の効用、といってしまうと打算的な読書の印象になってしまうので好きではありませんが、作者が言う「優しさとは何か、生きるとは何かについて
」考えるきっかけになる大切なものだ、というべきなのでしょう( 著者は語る : 参照 )。