『下町ロケット ゴースト』とは
本書『下町ロケット ゴースト』は『下町ロケットシリーズ』の第三弾で、2018年7月に刊行されて2021年9月に384頁で文庫化された、長編の痛快経済小説です。
『下町ロケット ゴースト』の簡単なあらすじ
町工場VS.ものづくりの神様
天才エンジニア「青春の軌道」–
町工場VS.ものづくりの神様。
不屈の挑戦が胸を打つ人生讃歌!ふりかかる幾多の困難や倒産の危機。佃航平率いる下町の中小企業・佃製作所は、仕事への熱い情熱と優れた技術力を武器に、それらを乗り越えてきた。しかし、佃製作所の前にかつてない壁が立ちはだかる。
同社技術力の象徴ともいえる大型ロケットエンジン部品の発注元、帝国重工の思わぬ業績不振。さらに佃の右腕にして、信頼を置く番頭・殿村に訪れた転機ーー。
絶体絶命のピンチに、追い詰められた佃が打開策として打ち出したのは、新規事業であった。新たな難問、天才技術者の登場、蘇る過去と裏切り。果たして佃製作所は創設以来の危機を克服することができるのか。
若き技術者たちの不屈の闘志と矜恃が胸をうつ、大人気シリーズ第三弾!
社運を賭した戦いが、いま始まる。(内容紹介(出版社より))
『下町ロケット ゴースト』の感想
本書『下町ロケット ゴースト』は、第145回直木賞を受賞した『下町ロケット』の続編『下町ロケット ガウディ計画』に続くシリーズ第三弾です。
今回も佃製作所に難題が降りかかります。
それはまずは佃製作所の内部の問題として佃製作所の経理を見てきた殿村の父親が倒れたという知らせであり、殿村は実家の畑をも見なければならくなったのです。
また取引関係の問題では、一つには重要な取引先である帝国重工の社長交代劇による方針転換で、ロケット打ち上げが見直しされることになったことで、あらためて言うまでもなく、佃製作所のロケット用バルブにとっても影響のある方針転換でした。
そしてさらに、大口取引先であるヤマタニからは佃製作所との取引関係の縮小が告げられたことです。
そのため、佃製作所社長の佃航平は新しい分野への新規参入を目指しますが、それこそが本書での主要なテーマとなるトランスミッション事業への参入なのです。
トランスミッションに関しては全く素人である佃製作所は、まず既存のメーカーへのトランスミッション用のバルブ納入を目指すことになります。そこで、登場するのがベンチャー企業であるギアゴーストでした。
本書『下町ロケット ゴースト』はこのギアゴーストという会社に降りかかる様々な問題について、佃製作所が自らの問題として対処していくその様が描かれることに主眼が置かれます。
最初は、佃製作所はギアゴーストの行うバルブに関するコンペに参入し、勝ち抜く必要がありました。そこで、ギアゴーストの提示する仕様をクリアするための若手技術者が苦労する姿が描かれます。
次にギアゴーストに特許権侵害訴訟という思ってもいない難題が降りかかり、そこに佃製作所が助けの手を差し伸べます。そして、第一巻で登場した弁護士神谷修一が登場し、再度辣腕を披露するのです。
このように、本書で起きるイベント(障害)自体はこれまでも佃製作所自身に降りかかってきた難題と似ています。しかし、もちろんその具体的な内容は異なり、全く新たな物語として読むことができるのです。
ただ、殿村の個人的な問題はまた異なります。殿村という人間自身の問題の延長上に佃製作所が存在するのであり、少なくとも本書においてはあくまで殿村個人の問題です。
そして、本書冒頭で示された帝国重工の内部問題から波及する佃製作所のバルブ供給に関する問題は、今秋にも発売されることになっているシリーズ第四弾『下町ロケット ヤタガラス』へと持ちこされています。
本書『下町ロケット ゴースト』においても佃製作所社長佃航平の、人を重視し信頼するという経営哲学は生きています。
その上で、現実には経営者として失格と評されるような決断も結果論としては上々の結果を生みだし、痛快小説としての十分なカタルシスをもたらしてくれます。
現実には人情論を優先させていては企業経営は成り立たないという話はよく聞くところです。しかし、せめて小説の中では人間を信頼し、暖かな気持ちになりたい、そうした心情を十分に満たしてくれるのです。
ちなみに、『下町ロケット』、『下町ロケット ガウディ計画』はTBSでドラマ化され大ヒットしましたが、本書『下町ロケット ゴースト』もこの秋からTBS系列の日曜劇場枠でのドラマ化が決定しています。
主演はもちろん阿部寛であり、本書の続編『下町ロケット ヤタガラス』も原作としてドラマ化されています。