『下町ロケット ガウディ計画』とは
本書『下町ロケット ガウディ計画』は『下町ロケットシリーズ』の第二弾で、2015年11月に刊行されて2018年7月に371頁で文庫化された、長編の痛快経済小説です。
『下町ロケット ガウディ計画』の簡単なあらすじ
直木賞続編、遂に文庫化!あの感動が再び!
その部品があるから救われる命がある。
ロケットから人体へーー。佃製作所の新たな挑戦!ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年ーー。大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。ドラマ化もされ、日本中に夢と希望をもたらした直木賞受賞作続編が、待望の文庫化!(内容紹介(出版社より))
『下町ロケット ガウディ計画』の感想
本書『下町ロケット ガウディ計画』は、テレビドラマ化もされた『下町ロケット』の続編となる長編小説で、テレビドラマでは、後半の「ガウディ編」の原作となっている作品です。
ロケットのバルブシステム開発に伴う様々な障害を乗り越える姿を描いた前作『下町ロケット』でしたが、今回は佃製作所が医療の分野、それも心臓手術に使用する人工弁の開発に挑戦する姿が描かれます。
今回は、サヤマ製作所という新興の企業が佃製作所の前に立ちふさがります。
サヤマ製作所は佃製作所の取引先の一つである日本クラインに取り入り、既に佃製作所に対し大量発注してあった人工心臓用のバルブの取引中止の原因を作り、またロケットエンジンの開発関連の取引先であった帝国重工とも、コンペという形で取引を競うことになってしまうのです。
そうした折、かつて佃航平のもとから喧嘩別れのように出ていった真野賢作が、心臓に埋め込む人工弁「ガウディ」の開発の話を持ちこんできます。
国産の人工弁開発を目指す北陸医科大学の一村隼人教授らと共に、心臓病に苦しむ子供たちを救って欲しいというのです。
ところが、日本クラインと組んでいる一村教授の師匠のアジア医科大学の貴船教授とが、サヤマ製作所と共に、佃製作所らへの妨害をしかけてくるのでした。
前回の『下町ロケット』とは異なり、巨大企業に挑む弱小企業の戦いや、佃工業内部の資金繰りの側面で苦労を描く場面よりも、人工弁開発に絡む大学教授間の争いや、企業間競争の側面が強いように思えます。
人間の描き方がステレオタイプに過ぎると言えなくもありませんが、それでも面白いものは面白いのです。
小説としての出来は、前巻の『下町ロケット』のほうが面白かったようには思うのですが、いずれにしろ、困難に直面し、乗り越えられないと思う頃に何らかの出来事が発生し事態は好転する、という痛快小説の王道にのっとっている物語です。
佃工業の中小企業なりのまっとうな企業努力こそが勝利するという痛快小説の王道を行く、物語でした。
企業小説として、本ブログの『下町ロケット』の項では城山三郎の『価格破壊』や
百田尚樹の『海賊とよばれた男』などを例として挙げましたが、ここでは獅子文六の大番を挙げておきたいと思います。
この書籍は少々古い(1960年代)作品ではありますが、戦後の東京証券界でのし上がった男の一代記を描いた痛快人情小説で、日本橋兜町での相場の仕手戦を描いていて、その面白さは折り紙つきです。痛快人情小説という点ではこちらの方が本書に近いかもしれません。